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ドキュメント 癌からの生還

最先端!がんセンター東病院トップが明かす「若者」「バカ者」「よそ者」な医師たち

2021年7月21日(水)11時50分
金田信一郎(ジャーナリスト)
国立がん研究センター東病院病院長の大津敦氏

国立がん研究センター東病院病院長の大津敦氏 HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

<癌治療の世界では、患者の年齢やライフスタイルを考慮しない「標準化」の流れが進んでいる。そんななか、なぜ国立がん研究センター東病院は診療科横断的な雰囲気を保ち、患者中心の治療を続けられているのか。実際に当院で放射線治療を受けた筆者が、病院長に聞いた>

元日経ビジネス記者でジャーナリスト歴30年の金田信一郎は昨年3月、突然ステージ3の食道癌に襲われた。

kaneda_cancer_book.jpg紹介されて入院したのは、日本最高学府の東京大学医学部附属病院(東大病院)。癌手術の第一人者で病院長が主治医になったが、他の選択肢があったにもかかわらず手術以外の選択肢が提示されなかったことに疑問を抱き、国立がん研究センター東病院へと転院。結果的には放射線治療によって、今では以前とほぼ同じ日常を取り戻した。

金田は先頃、一連の体験を題材にしたノンフィクション『ドキュメント がん治療選択 ~崖っぷちから自分に合う医療を探し当てたジャーナリストの闘病記』を上梓した。また7月20日発売のニューズウィーク日本版(7月27日号)「ドキュメント 癌からの生還」特集では、200日の闘病記を16ページのルポルタージュにして収録。本誌で金田は、思考停止に陥った日本の医療体制、そして患者にも強烈な問いを投げ掛けている。

本誌未収録の本記事は、その取材の一環で訪れた国立がん研究センター東病院病院長である大津敦氏へのインタビューだ。

東大病院をはじめ日本の多くの病院が、患者の年齢やライフスタイルを考慮することなく手術を勧めるのに対し、がんセンター東病院が放射線治療という選択肢を提示できたのはなぜか──。大津氏に聞いた。

※東大病院病院長・瀬戸泰之氏のインタビューはこちら:東大病院の癌治療から逃げ出した記者が元主治医に聞く、「なぜ医師は患者に説明しないのか」

◇ ◇ ◇

──私は東大病院から転院してきて、がんセンター東病院で外科や内科、放射線科の医師のみなさんの治療を受け、多くの知見をいただきました。この病院は、日本の中では特異な存在だと感じていまして、経営トップにお話をうかがいたいと思っていました。大津先生は、この病院の歴史的証人ですね。

はい、開院から勤務しています。

──多くの人は、がん研(がん研究会)とがんセンターを混同していると思います。がん研は戦前に生まれた組織ですが、がんセンターは比較的新しい組織ですね。

1962年に開院しました。

──ジャーナリストの柳田邦男が『ガン回廊の朝』で、がんセンターの設立期を描きました。それまで外科中心だったがん治療を、各科の壁を取り払って患者中心の治療に変えていく、そんな医師たちの思いが描かれていました。あれは築地にあるがんセンター中央病院の話でしたが、その「分院」となるこのがんセンター東病院は30年後の1992年に設立されています。この病院も30年が経ちましたが、『ガン回廊の朝』のような思いを引き継いでいるのでしょうか。

私自身は1986年から3年間、築地のがんセンター中央病院でレジデント(研修医)をやっていまして、その後、東病院が開院してからは、ずっとここにいますので、両方の病院を知っています。

この病院ができた発端は、国立病院の統廃合でした。この地域には、国立の柏病院と松戸療養所がありました。松戸療養所は結核患者が中心でしたが、当時はがん患者に大きく変わってきていました。ですから、がんセンター出身の医師もかなり多かったんですよ。当時、(松戸療養所病院長だった故人の)阿部薫先生が、東病院の初代院長として「新しいがんセンターをつくる」ということで、厚生省(現厚生労働省)と調整したと聞いています。

──反対の声もあったんですか。

「なぜ、もう一つがんセンターをつくるんだ」という議論はありました。そこで、「難治性のがんを対象にする」ということで、難治がん、特に肺がんや肝臓がんを主な対象にした「第2がんセンターをつくる」ということにしたのです。

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