最新記事

ドキュメント 癌からの生還

東大病院の癌治療から逃げ出した記者が元主治医に聞く、「なぜ医師は患者に説明しないのか」

2021年7月20日(火)07時00分
金田信一郎(ジャーナリスト)

──ところで、東大病院の病棟9階は全部、先生の患者さんですか。

私の科(胃・食道外科)のフロアです。ほかの科の患者さんも入っていますが。

──瀬戸先生は毎日、朝夕2回、回診している。

東京にいる時はそうしています。

──あのフロアだけでもすごい人数ですよね。

40人くらいいます。

──先生、患者のみなさんを把握されてらっしゃる?

だいたい分かります。

──先生が回診されている時、話しかけようと思っても、話しかけられないものですね。

確かにそうかもしれません。朝は忙しいので、申し訳ないのですが。ただ、それでも「患者さんが元気かな」と見て回っています。

──様子を見て回る、と。

だいたい、何かあれば、患者さんの顔つきで分かりますから。

──昔から、秋田の病院やがん研でもやっていたんですか。

そのスタイルは変わっていません。

──誰かに「回診は毎日すべき」と教えられたんですか。

私の父がそういう医者で、日曜日でも必ず病院に行っていました。ですから、それが私にとっては普通なんです。昔気質の外科医ですね。むしろ、患者さんを見てない方が不安になります。妻は「ビールをおいしく飲むためでしょ」と言います(笑)。ただ、帰宅する時に患者さんが何事もなく、元気でいれば、それだけで安心できますから。

──ビールがおいしい、と。

だから、自己満足とも言われます。

──久しぶりに東大病院に来ましたけど、2週間ほどの入院生活を思い出して、懐かしいですね。先生たちはもちろん、患者さんにも支えられました。みんな東大病院に絶対の信頼を寄せていました。まあ、逆に言うと、そこまで任せきりにして大丈夫か、とも思いましたけど。

治療を受ける姿勢は、患者さんごとに違っていいと私は思っています。(病院に)任せっきりの人もいますし、いろいろと勉強して自分なりの考えを持つ人もいます。私たちのスタンスは、患者さんの気持ちを優先すること。それを大事にしています。

ただ、例えば88歳の高齢のおじいちゃんが来るとします。そんな時でも、私たちは、年齢などはいったん無視して、癌だけを見た時の我々の治療方針をお話ししています。それを受け入れるかどうかは別の要因があり、88歳のおじいちゃんと50歳の人では考え方は違うはずです。

だからこそ、我々はまず病気だけを見て治療方針を考えています。癌だけを見れば、この方法がベストではないか、と。

次に、患者さんの88歳という年齢やご家族の考え方などを加味して、最終的には患者さんにも考えてもらわなければなりません。私たち医者が、患者さんの背景まで把握することはできませんから。家族のことやその人の価値観もそれぞれ違うはずです。

治療方針の話をするのは、初めて会う人や、検査が終わって2回目に合う人ですから。だから、CTや内視鏡の結果だけを見て、「我々はこういう治療をします」とお伝えします。ただ、それを受け入れるかどうかは、みなさんの考え方です、と。

そうすると、「私のような年齢でも手術を受けられますか」と質問する患者さんもいます。「肺活量もしっかりありますし、心電図も問題ありません」と言えば、「じゃあ、がんばります」と答えるかもしれません。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中