最新記事

ドキュメント 癌からの生還

東大病院の癌治療から逃げ出した記者が元主治医に聞く、「なぜ医師は患者に説明しないのか」

2021年7月20日(火)07時00分
金田信一郎(ジャーナリスト)

oneonone.jpg

筆者(左)の取材に応じる東大病院病院長の瀬戸泰之氏(5月20日、瀬戸氏の研究室にて) HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

──私の場合、東大病院で、「抗癌剤3クールやって手術」ということで、1クールを終えたところでセカンドオピニオンによって、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)に移りました。そこで抗癌剤2クール目から再開して手術の直前までいったんですけど、放射線に切り替えて治療を終えました。思い返すと、最初から放射線でやるという選択肢はなかったんですか。

その可能性もあります。患者さんが希望すれば、そういった選択肢もあるでしょう。ただし、放射線治療は患者のみなさんが思うほど、患者さんに優しい治療ではありません。体の中にヤケドを起こすわけですから。

また、手術との最大の違いは、(癌を)取り除くわけではないので、癌がきれいに消えたように見えたとしても、また出てくる可能性があります。たとえコンプリート・レスポンス(完全奏効)で消えたように見えても、私たちが全国調査した結果では、4割程度はまた(癌が)出てきました。

患者さんは、「再発したら手術をすればいい」とおっしゃいますが、放射線を当てた後の患部は組織が硬くなっているので、手術が難しくなります。

──リンパ節も剥がしにくいといいますね。

食道は肺に囲まれていますから、手術そのものは大事になってしまいます。ただ放射線治療では肺にも放射線が当たってしまうデメリットがあります。また放射線治療だと「晩期毒性」といって4〜5年たってから後遺症が出ることもあります。

放射線を被ばくしているわけですから。つまり放射線と手術では、やはりそれぞれの特徴と役割があるのだと思います。

──そうすると、患者が、最初の段階で「放射線治療をやりたい」と言わないといけない、ということですか。

そうおっしゃる患者さんもいらっしゃいます。ただ我々は、「この段階ではまず、抗癌剤を受けていただいて、手術することをお勧めします」と説明しています。それでも患者さんが「私は放射線治療を受けたい」とおっしゃれば、その思いを尊重して、放射線科を紹介しています。それでも、我々の方針は方針としてきちんとお伝えしています。

──いずれにしても、患者が医療について分かっていないと、できないことになるわけですね。

そこが難しいポイントです。我々が患者さんに「どうしますか」と聞いたら、きっと患者さんは困るはずです。

──最初の段階で、医師が「放射線もあります」と言うと、かえって混乱するという意味ですか。

私たちは、我々の方針を説明しています。金田さんが東大病院に入院して、がんセンター東病院に転院して、最終的に放射線治療を選んだのは、まず抗癌剤治療を受けて、しっかりと考える時間があったからではないでしょうか。

──その通りです。

患者さん一人ひとりに考える時間がないと、難しいですよね。

──そうなんです。考える時間がないと分からないんです。1カ月ぐらいだったら、恐らく手術前に仕事を片付けることに必死になっていて、何も考える時間がなく手術を受けていただろうな、と。抗癌剤が3クール9週間あったので、なんとかギリギリ、その間に考えることができた。そもそも自分の病気の状態すら分からなかったんで。その経験から、ほかの患者さんは大丈夫かな、と思ってしまいます。

ただ、患者さんにもいろいろなタイプの人がいらっしゃいます。金田さんのように自分でしっかりと調べて考える患者さんもいれば、「先生に全部任せますよ」という患者さんもいらっしゃいます。そして、実際には相当数の患者さんが「先生にお任せします」とおっしゃるのです。

もちろん、中にはいろいろと勉強をなさって、「放射線という可能性はありませんか」「自由診療でもいいから、もっといい治療はありませんか」と質問する患者さんもいらっしゃいます。そう聞かれると、私たちはそれぞれ対応しています。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者が訪米、2日に米特使と会

ワールド

お知らせー重複配信した記事を削除します

ワールド

メキシコ政府、今年の成長率見通しを1.5-2.3%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中