サイバー攻撃は従来と別次元のリスクに...核戦争の引き金を引く可能性は十分ある
FROM CYBER TO REAL WAR
その4年後、世界は即時的な軍事行動を目撃した。19年5月にイスラエル国防軍が、パレスチナ自治区のガザでイスラム組織ハマスの本拠地とされる場所を空爆。「イスラエルを標的とするサイバー攻撃の試みを阻止した」と発表した。今年5月にも11日間にわたる武力衝突があり、イスラエル軍はハマスのサイバー拠点を攻撃した。
米サイバー軍司令部は同盟国と協力して、ロシアをはじめとする敵の活動に関する洞察と情報を収集し共有している。司令部の報道官は、サイバー攻撃の出所を追跡するために他国で作戦を展開する「ハント・フォワード」だと語る。「これらの作戦は『前方防衛』戦略の一部だ。敵が何をしているかを見極め、国内のパートナーと情報を共有し、防衛力を強化していく」
NATOの共同声明が強調しているように、大規模なサイバー攻撃に対してバイデン政権はさまざまな選択肢を検討してきた。「(ソーラーウインズのような規模と範囲の攻撃に対し)われわれは一貫して、目に見えるものと見えないものの両方に対応する行動を準備している」と、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はNATO首脳会議の直前に記者団に語った。
「意図せぬ戦争」を回避せよ
こうした曖昧な発言にも、ロシアは神経をとがらせる。「アメリカの人々が恐れることは、まさにわれわれにとっても危険になり得る」と、プーチンはバイデンとの会談前に米NBCのインタビューで語った。「アメリカはハイテク国家であり、NATOはサイバー空間が戦闘領域だと宣言している。つまり、彼らは何かを計画していて、準備しているということであり、われわれとしては恐れずにいられない」
米ロ首脳会談でサイバーセキュリティーが議題になった理由の1つは、意図せぬ戦争を避けるためだ。攻撃としても防衛としてもサイバー作戦を展開する権利は、双方が主張している。ただし、どんな行動が許容され、あるいは許容されないかについては、国際的な合意が必要になる。
「このままエスカレートすることは許されない」と、元FBI高官で、サイバーセキュリティー会社クラウドストライクの社長兼CSO(最高セキュリティー責任者)のショーン・ヘンリーは言う。「(首脳会談で)核軍縮が協議されたのは、まさにそのためだ。事態がエスカレートし続けて、制御不能に陥ってはならないと分かっているからだ」