最新記事
中国

「今、何が問題か」と問われれば、ただちに「中国」と答える

2021年7月14日(水)17時20分
三浦雅士(文芸評論家)※「アステイオン」ウェブサイトより転載
中国国旗

Sky_Blue-iStock.


<アカデミズムとジャーナリズムの架け橋を担う論壇誌『アステイオン』が問う、今の問題とは? 「アステイオン」ウェブサイトより、文芸評論家の三浦雅士氏による「「再び『今、何が問題か』」を読む」を全文転載する>

『アステイオン』94号の特集は「再び『今、何が問題か』」である。「再び」というのは、2012年にも「今、何が問題か」という特集を組んでいるからだ。ほぼ10年を経て同じ趣旨の特集を組むのは編集委員が入れ替わったことによる。

先立つ10年の編集委員は、委員長の田所昌幸以下、張競、池内恵、苅部直、細谷雄一、待鳥聡史の計6人。このうち、田所、張を除く4人が、岡本隆司、武田徹、土居丈朗、中西寛に入れ替わった。新旧ともに錚々たるメンバーだが、その全員すなわち「新」編集委員6人プラス「旧」編集委員4人の計10人が寄稿している。

みな、自身の立場から見て「今、何が問題か」を問うていて、読み応えがある。全員が男性の大学教授――待鳥氏の言い方で言えば専門知の人々――であることに、あるいは違和感を覚える向きがあるかもしれないが、少なくとも私は覚えない。明確な視点をもった主義主張のほうに気を取られてしまうからだろう。それぞれの論文表題が内容を示していて興味深いのだが、別掲広告に示されるだろうから、ここでは挙げない。

『アステイオン』は年二回の刊行だが、ジャーナリズムの一翼を担う。日刊紙、週刊誌、月刊誌とあって、それぞれ呼吸の違いを示す。日刊紙は反射神経、月刊誌は立ち止まる余裕を多少は持った思考である。アカデミズムには別に年報というものがあって、これはふつう専門知の研究成果を結集する。

したがって年二回刊とは、刊行形式そのものが、アカデミズムとジャーナリズムのあいだにあって絶妙なバランスを取ろうとする姿勢を示していることになる。これこそ、田所編集委員長のもっとも意を用いるところだろう。専門知と現在只今の政治経済状況、文化社会状況を鬩ぎ合わせようとしているのだ。論文はすべてその意図によく応えている。

私は専門知には縁のない素人だが、「今、何が問題か」と問われれば、ただちに「中国」と答えるだろう。これには誰も異論がないだろう。ほとんど世界史的課題として眼前していると言っていいからである。事実、鋭敏と言うべきか、全員が大なり小なりこの問題に関わっている。

言語行為を論じた武田氏の文章が異質に思えるだろうが、そうではない。日本と中国の近代のありようの違いは、漢字と内面性の問題に深く関わっているからだ。

中国という問題にはいくつもの切り口がある。その切り口が今すべて顔を揃えていると言っていい。筆頭はマルクス主義の問題である。ソ連とともに終わったわけではなかったのだ。収容所群島にしても臓器移植にしてもウイルスの機能獲得実験にしても、私はすべてマルクスにその起源があるのではないかと疑っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中