日英の貿易協定は布石、アジアにのめり込む英ジョンソン首相の計算
JOHNSON’S GLOBAL BRITAIN
ILLUSTRATION BY KYOJI ISHIKAWA FOR NEWSWEEK JAPAN
<アジアに急接近して貿易協定の締結に励んでも、詰めの甘いジョンソン首相に難題の解決は本当に期待できるのか>
英首相のボリス・ジョンソンは威勢のいいスローガンがお好みのようだ。EU離脱派の旗頭だった5年前には「支配権を取り戻せ」、今は「グローバル・ブリテン(世界の中のイギリス)」を掲げ、バラ色の構想を売り込んでいる。
スローガンをぶち上げても中身については詰めが甘いジョンソンだが、基本的な考えは明らかだ。EUのくびきから解放されたイギリスは世界第6位の経済大国として堂々と独自外交を繰り広げ、民主主義と自由貿易の旗振り役を務めるというもの。特にジョンソンが目を付けるのはアジアの急成長市場だ。近頃では「インド太平洋への傾斜」が政権の合言葉になっている。
幸運にもジョンソンは今年、自身が描く新しいイギリス像を世界に示す絶好の機会に恵まれた。6月半ばには主要国の首脳たちを招いてG7を開催。気候変動対策を協議する国連会議COP26も11月にイギリスで開かれる予定だ。
EU域外の新たなパートナーとの関係づくりでは明るい兆しも見える。なかでも見逃せないのは日本と貿易協定を結んだこと。日本はアジア太平洋地域11カ国の貿易協定CPTPPへのイギリスの加盟も強力にプッシュしている。
首相の支持率が上昇した理由
インドとの貿易協定も重要課題だ。ジョンソンはEU離脱後初の外遊先にインドを選び、1月に訪問を予定していたが、新型コロナの感染拡大で延期。4月に再び計画したが、これも中止した。代わりにインドのナレンドラ・モディ首相をG7に招待。モディはオンラインで参加した。
国内では、ジョンソンは政策を実現しやすい立場にある。彼が率いる与党・保守党は2019年の総選挙で圧勝し安定議席を獲得した。しかもワクチン接種が迅速に進んだおかげで首相の支持率は上昇し、最大野党・労働党の支持基盤にまで食い込んだ。
なぜか。1つには「円滑な業務運営」を旨とする保守党の伝統を捨てた(ように見える)からだろう。ジョンソンは比較的貧しい地域に豊かさをもたらそうと、政策目標の「レベルアップ」を掲げ、公共交通の改善など幅広い施策に予算を投入している。
だが見通しはそう甘くない。自由貿易を拡大すれば国内産業は外国との競争にさらされる。最近まとまったオーストラリアとの貿易協定には、政権内でも懸念の声が聞かれる。農産物輸入の拡大で農家が苦境に追い込まれれば、重要な票田を失いかねないからだ。