最新記事

個人情報

世界的な出生前遺伝子検査の大手・中国BGI、分析データが当局に渡る可能性

2021年7月8日(木)15時37分
BGIグループの出生前検査を受けた際に提出した同意書のコピーを手にするワルシャワの女性

中国の遺伝子解析最大手BGIグループ(華大集団)が中国軍と共同開発した出生前検査のデータを二次利用し、診断データが国家安全保障に直接関連する場合には中国当局に提出可能な規定となっていることが分かった。 写真は、BGIグループの出生前検査を受けた際に提出した同意書のコピーを手にする女性。ワルシャワで3月撮影(2021年 ロイター/Kuba Stezycki)

中国の遺伝子解析最大手BGIグループ(華大集団)が中国軍と共同開発した出生前検査のデータを二次利用し、診断データが国家安全保障に直接関連する場合には中国当局に提出可能な規定となっていることが分かった。同社の出生前検査は世界中の妊婦数百万人に利用されている。ロイターが公開資料などを基に調査した。

BGIが人民解放軍と協力して出生前検査を開発し、診断データを保管・分析していることが明らかになったのは初めて。

BGIは2013年に出生前検査の海外での販売を開始。同社の「NIFTY」は非侵襲的出生前検査(NIPT)として世界で最も販売されている検査の1つで、母体からの採血によって胎児の異常を調べる。

BGIによると、これまでに検査を受けた女性は世界全体で800万人余り。NIFTYは英国や欧州諸国、カナダ、オーストラリア、タイ、インドなど少なくとも52カ国で販売されているが、米国では販売されていない。

ロイターの調査で、検査を受けた女性500人以上の遺伝子データが、BGIが運営する深圳の「国家基因庫(ナショナル・ジーンバンク)」に保管されていることも分かった。国家基因庫には中国政府が資金を提供している。

またロイターの調査によると、BGIは香港の自社研究所に送られてくる検査後の血液サンプルやデータを人口調査に利用していることを認めた。

ロイターの調査では、BGIによる個人情報保護規定や規則の違反は見つからなかった。同社は、検査の際に同意を得ており、海外のサンプルやデータは5年後に廃棄しているし、検査や分析にあたって個人情報にアクセスすることはないと説明した。

ただ、BGIの検査の個人情報保護規定によると、収集したデータが中国の国家安全保障に直接関連する場合には当局への提供が可能となっている。

同社によると、これまでにNIFTYのデータについて中国当局から提供の要請を受けたことはなく、提供したこともないという。

米国家テロ対策センターはロイターの取材結果について、NIFTYを受ける海外の女性は中国の情報機関へのデータ提供を認めている個人情報保護規定に注意すべきだと指摘した。

専門家の話に基づくと、出生前検査を販売し、研究のためにデータを利用している企業は複数あるが、いずれもBGIほど大規模ではない。またBGIは政府とつながりを持ち、軍と協力してきた実績もある。

ロイターの調査によると、BGIは2010年に軍と組んで胎児の遺伝子の研究を開始。軍の研究者と共同で出生前検査について数十件の研究結果を報告している。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・中国・遺伝子操作ベビーの誕生から1年、博士は行方不明、双子の健康状態も不明
・暴走する中国ゲノム研究
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中