最新記事

中国

南シナ海判決から5年 止まらない中国の海洋進出

2021年7月13日(火)09時33分
南シナ海の漁から戻ったフィリピンの漁師たち

フィリピンの漁師ランディ・メグさんは、南シナ海で発生する嵐など物ともせずに漁に出ることが多い。写真は6日、南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)での漁から戻ったフィリピンの漁師たち。パンガシナン州インファンタで撮影(2021年 ロイター/Eloisa Lopez)

フィリピンの漁師ランディ・メグさん(48)は、南シナ海で発生する嵐など物ともせずに漁に出ることが多い。だが最近では嵐より怖いものがある。水平線上に現われる、中国海警局の艦艇だ。

オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、メグさんが漁に出る海域において中国が主張する同海域の歴史的権利に法的根拠がないとの判断を下してから5年。メグさんは、中国の艦艇に遭遇する頻度は以前よりも上がっていると話す。

「とても怖い」とメグさんは言う。彼はアウトリガー(舷外浮材)が付いた木造漁船に乗るが、5月には陸から約140カイリ(260キロ)離れた海域で3時間にわたり中国の艦艇に追尾されたという。

メグさんによれば、他の漁師からは、伝統的に彼らの漁場と思っていた海域で漁をしている最中に、衝突されたり放水銃の噴射を受けたという報告があるという。2016年の常設仲裁裁判所での裁定によって安全が確保されるものと期待していた海域だ。

中国外務省は9日、中国政府は同裁判所の判断を受け入れておらず、またこれに基づく要求や行動を容認しないとの主張を繰り返した。中国はいわゆる「九段線」内の海域のほとんどについて領有権を主張しており、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナムとも争いが生じている。

中国外務省はロイターに対する声明の中で、この海域で操業する中国漁船は国内法・国際法を遵守していると述べ、中国が毎年夏に実施する8月16日までの漁業一時停止の対象にはならないとしている。

排他的経済水域への侵入

フィリピンの主張によれば、3月に起きた1件だけに限っても、中国の民間武装船200隻以上が、フィリピン沿岸から200カイリまで広がる同国の排他的経済水域(EEZ)に侵入したという。

中国外務省は声明の中で、フィリピンのEEZ内の中国船については触れていない。中国の外交関係者は以前、そうした船舶は悪天候から退避しているだけであり、船員は武装していないと述べていた。

ワシントンの戦略国際研究センター(CSIS)のグレッグ・ポーリング氏は、「この海域のデータは非常に明確だ」と述べる。「フィリピンのEEZ内における中国海警局の艦艇と民間武装船の数は5年前よりも増加している」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中