最新記事

森林火災

カナダで気温49℃、森林火災で町の9割が火の海に 火災積乱雲に警戒

2021年7月5日(月)17時30分
青葉やまと

バンクーバー・サン紙によると、7月4日午前の時点でも173件の森林火災が同時進行しているようだ。州森林火災局はこのうち42%が制御不能の状態にあり、さらに16%について判断を保留していると発表した。

火災積乱雲の発生で悪循環の危険も

大規模火災特有の気象現象により、状況はさらに悪化する可能性がある。広域で火災が発生すると、高熱による上昇気流によって煙の粒子を含む空気が上空へと吹上げらる。空気中の水分は高度が上がるにつれて冷却されて凝縮し、やがて不純物を含む積乱雲を形成する。「火災積乱雲」と呼ばれる雲の誕生だ。

積乱雲は一般に、強力なダウンバーストを発生させることがある。これは、上空で冷やされて重くなった空気が下降気流を形成し、鉛直下方向に強力に吹き付ける現象だ。森林火災の上空で火災積乱雲が形成されると、地面に到達したダウンバーストが炎と燃えさしを周囲に運び、火災を周辺域に広げる恐れがある。ダウンバーストの到達範囲は広く、火災の発生域から数キロないし数十キロ離れた地域にまで及ぶことがあるため、近隣の街では警戒が必要だ。

これに加え、落雷の発生という面でも火災積乱雲は厄介だ。火災積乱雲は2019年にオーストラリア南部のバーンズデールで起きた大規模な森林火災の際にも発生しており、落雷が森林に達すれば新たな野火を招きかねないとして問題視されていた。今回のカナダでも、7月3日までの過去24時間にB.C.州内で99件の森林火災が発生しており、うち7割近くが落雷に起因するものとなっている。

5e0a0004fb23d058ec72bcfc1.jpg

(Bureau of Meteorology, Australia)


火災積乱雲による雷は、通常の積乱雲よりも大きなエネルギーを長時間かけて放出する性質があるため、落雷による火災を招きやすい。これは、電荷の違いによるものだ。夏季の積乱雲は通常、雲内部に溜まった負の電荷を中和しようとする「負極性落雷」が多い。一方で火災積乱雲は構成粒子の違いにより、逆の「正極性落雷」を発生させることが多い。ひとたび落雷が起きれば高エネルギーにより雷撃点で火災は起きやすく、森林火災と積乱雲が互いを呼び込む悪循環が懸念されている。

B.C.州では現在も火災が継続しており、緊張が続く。州の消防情報官はカナダ放送協会に対し、高気温と空気の乾燥が依然として継続しているため、火災を招きやすい状況が続く見込みだとコメントしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中