混迷深まるミャンマー スー・チー裁判は長期化、反軍政の武力抵抗は激しさ増す
ミン・ミン・ソー弁護士によると28日の公判に出廷したスー・チー氏は、健康状態もよく、同じくコロナ禍への十分な対応不足で訴追されて、身柄を拘束されている民主政権のウィン・ミン大統領に対する証人尋問にも立ち会ったという。
そして、今後の裁判で全ての容疑で有罪判決が下された場合、スー・チー氏さんの服役する刑期は最低でも10年以上になるといわれている。
これは「民主的な選挙」を2年以内に実施することを表明している軍政として、総選挙そしてその後のミャンマー政治からスー・チー氏ら民主政権関係者を完全に排除し、その影響力を消滅させることを狙っているといえるだろう。
激化する軍への武装抵抗
スー・チー氏への裁判が長期化する中、反軍政を掲げる国民の軍への武装抵抗はヤンゴンや中部の都市マンダレーなど地方でも激しさを増している。
6月27日午後1時ごろ、マンダレーの南西にあるザガイン地方カレイ郡区で兵士50人を輸送中だった軍の車列を地元カレイの「国民防衛隊(PDF)」が待ち伏せ攻撃をして、少なくとも兵士9人を殺害、多数に負傷を負わせた。
PDFは軍政に対抗するためにスー・チー氏やウィン・ミン大統領など民主政権幹部、スー・チー氏の与党「国民民主連盟(NLD)」幹部、少数民族代表からなる「国民統一政府(NUG)」が中心となって組織した武装組織で、軍による反軍政を訴える国民への強圧的弾圧、人権侵害などに武力で対抗する目的で全国的に組織された経緯がある。
PDFへの軍事訓練、武器供与、共同作戦などで協力している国境地帯に展開する少数民族武装組織も軍の拠点や軍車両に対する攻撃を激化しており、軍兵士、警察官、軍政支持者、密告者などへの襲撃、殺害事件も相次いでいる。
このように軍政が民主政権の影響力を封じ込めようとする動きを強化しようと努力しても、反軍政の機運は一向に収まる気配が見えない。
むしろ逆に軍への強い反発、軍制への拒否感が高じて、各地で武器を手にした一般市民による武装闘争が激化、兵士らの犠牲が増える事態となるなどミャンマー情勢はますます混迷の度を深め、実質的な内戦状態になりそうな状況だ。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など