風邪をひいているとコロナを予防できる可能性がある 米イェール大研究
風邪の感染時に身体の防御機構が「起動」し、臨戦状態になるという...... Christian Horz-iStock
<先に風邪をひいていると免疫系が直ちに反応でき、体内でのコロナウイルスの増加を食い止めてくれるのだという>
日頃不便に感じる風邪も、気づかないうちにコロナウイルスから身体を防御してくれているのかもしれない。アメリカの研究により、風邪をひいているとコロナに感染しにくいという可能性が示された。
風邪の原因にはさまざまなウイルスがあるが、最も多いのはライノウイルスによるものだ。風邪の症例のうち2割から5割程度のケースで原因になっており、とくに春と秋のシーズンに多くを占めるといわれる。
イェール大学で免疫生物学を研究するエレン・フォックスマン博士たち研究チームは、このライノウイルスの副次的な効果に着目した。一般的な風邪をひいてこのウイルスに感染していると、コロナウイルスが体内に侵入したとしても、増殖を抑えることができるのだという。研究の結果がこのほど、薬学学術誌のエクスペリメンタル・メディシン誌上で公開された。
新型コロナの爆発的増殖、ラボの実験でほぼ皆無に
新型コロナウイルスは、鼻から喉にかけての上気道と呼ばれるエリアに付着して侵入する。そこで研究チームは、新型コロナウイルスが気道組織上でどのように増殖するかを2つのパターンで検証した。
はじめに、人工的に培養したヒトの気道組織に新型コロナウイルスを感染させたところ、組織内のウイルス量は6時間ごとに倍増という圧倒的な速度で増殖し、3日間でピークに達した。一方、あらかじめライノウイルスに感染させた気道組織で同様の実験を行ったところ、新型コロナウイルスの複製はほぼ完全に阻害されることが確認された。
実験ではさらに、通常時のヒトの免疫機能だけでコロナへの感染を阻止できるかを検証した。結果、コロナへの曝露量がごく少ない場合には感染を防止できたが、ウイルス量が一定以上になると無力であったという。すなわち、少量の新型コロナウイルスに曝された場合は本来の免疫のみで防御できるが、一定量以上の量に曝された場合には、ライノウイルスの有無が感染の明暗を分ける可能性がある。
先にひいた風邪が免疫機能を「起動」してくれる
コロナの感染を防ぎやすくなるといっても、ライノウイルスが直接コロナウイルスを撃退してくれるわけではないのだという。防御作用が生じるのは、風邪の感染時に身体の防御機構が「起動」し、臨戦状態になっているためだ。免疫が高まるまでのタイムラグが生じなくなり、コロナへの曝露時に遅延なく免疫効果を発揮できるようになる、と博士たちは考えている。
一般に、体内でウイルスが検知されると、免疫細胞がたんぱく質の一種であるインターフェロンを分泌する。インターフェロンはほかの細胞上にある複数の受容体と結合し、結果的に「インターフェロン誘導遺伝子」と呼ばれる遺伝子群を産生することで、ウイルスへの抵抗力を高める。
新型コロナウイルスへの感染時にも体内の細胞はインターフェロンの分泌を始めるが、コロナウイルスは感染初期に爆発的なスピードで増殖する。そのため、ウイルスの量に対抗できるだけの十分なインターフェロンの産生が間に合わず、感染が進んでしまう。