ビットコインを法定通貨に採用した国...仮想通貨が国家経済と財政を救う?
Bitcoin Fantasyland
マラーズに言わせると、本物のドル紙幣が欲しいなら、まずは送られてきたテザーでビットコインを購入し、それを最寄りのビットコインATMに入れて米ドルの現金を引き出せばいい。だが現実問題として、あの国にはビットコインATMが2台しかない。仮想通貨モデル地区に指定された2つの村にあるだけだ。
エルサルバドルの経済は現金決済で回っている。成人の7割が銀行口座すら持っていない。わずか90日で、デジタル決済のインフラを構築できるのかは大いに疑問だ。
現状でインターネットを利用できるのは国民の45%。農村部に限れば10%前後だ(大統領は、ビットコイン業界の手を借りて衛星通信網を整備すると主張している)。
消費者にも商店にも決済アプリを無償配布すると政府は言うが、あいにくストライクのアプリは古いスマホだとうまく作動しない。ビットコインATMも自国では生産できないから、外国から調達する必要がある。
独断専行の肝煎り政策
ブケレはこの計画を、事前に国内の誰にも明かしていなかった。国内メディアは慌てて外国通信社などの報道を翻訳し、伝えたのみ。有力紙ディアリオ・デ・オイの電子版は国内の専門家にコメントを求めたが、ビットコインが国民に有益だという証拠は誰一人示せなかった。
実を言えば、ブケレ政権の財政は破綻している。支持率が90%超で盤石に見えるのは、増税なしで政府支出を増やしてきたからにすぎない。それで膨らんだ財政赤字を埋めたくても、法定通貨は米ドルだから勝手に増刷できない。だからブケレは、出稼ぎ労働者の仕送りから米ドルを吸い上げようと考えた。
今のアメリカ政府はブケレのポピュリスト的な体質にも縁故主義にも不快感を示している。だから公的援助の支給先も、政府ではなく民間団体に変えた。金融市場もエルサルバドル政府を信用していないから、同国の国債は大幅に割り引かれている。
ブケレはビットコイン法採択の翌日にIMFから10億ドルの融資を獲得するための交渉に臨んだが、IMFも事前の記者会見で、この法律の趣旨に懸念を表明していた。
要するにブケレは、ビットコインを国内に流通させ、それを米ドルと等価だと言い張ることにより、アメリカにいる自国民の送ってくる米ドルを横取りして対外債務の返済に充てる算段らしい。
議会で法案が審議されていた間にも、ブケレはビットコイン推進派との公開ビデオ会議に参加し、自分の構想の詳細を語っていた。ビットコインと米ドルの交換比率の変動による差損を補塡するため、国営の開発銀行に1億5000万ドルの信託基金を設けるという。素敵な大盤振る舞いだが、この国の外貨準備高は25億ドルにすぎない。