ビットコインを法定通貨に採用した国...仮想通貨が国家経済と財政を救う?
Bitcoin Fantasyland
商人(または犯罪者)は受け取ったビットコインをこの信託に持ち込んでドルに替えるから、当初の1億5000万ドルはいずれ、全てビットコインに置き換えられる。
債務の返済もビットコインでできる。年金基金から政府が借り入れた分も同様に処理されるから、結果として国民の払い込んだドルがビットコインに化ける。公務員の給与もビットコイン払いになる。
またビットコインの取引では実名の使用が求められないので、いわゆる本人確認ができない。そこが物理的な通貨と決定的に違う。当然、犯罪絡みのビットコインを持つ人は一刻も早くドルに替えたいので、この信託に持ち込む。結果、この1億5000万ドルは不正なマネーロンダリングの受け皿となる。
マネーロンダリング対策に関して、エルサルバドルは従来、一定の信頼を勝ち得てきた。しかし性急にビットコインを採用すれば、その信頼は吹き飛ぶ。そうなると、アメリカからエルサルバドルへの送金も面倒になる。
政府よりドルを信頼
ブケレ政権要人によれば、ストライクを使えば国内からは1回につき1ドル(米国からなら5ドル)の「クレジット」を差し引かれるだけで送金でき、「手数料は不要」だという。しかし政府は、その「クレジット」の一部をストライクから徴収できるだろう。その場合、政府は国民の貴重な仕送りに手を付け、ドルをかすめ取れることになる。
こんな仕組みをエルサルバドル国民が受け入れるだろうか。現に国民は自国の政府よりも米ドルを信頼している。そしてビットコインの採用は国民のドル資産を政府が吸い上げるたくらみだとみている。米ドルへの交換手数料を引き上げたり、引き出し限度額を設定するなどの措置を追加すれば、政府はいくらでもドルを搾り取れる。
アルゼンチン政府は21世紀初頭に起きた金融危機の際、同様の措置を導入した。
アルゼンチンの通貨ペソは1991年以来、米ドルと1対1で取引されていた。だが2001年には経済の停滞で財政赤字が深刻化し、国民は米ドル連動制の崩壊を恐れ、われ先にとドル資産を銀行から引き出そうとした。
慌てた同国政府は銀行預金の引き出し制限(コラリート)を発動し、事実上全ての銀行口座を凍結した。わずかな額の引き出しのみを許可したが、各地の銀行では取り付け騒ぎが起きた。大規模な暴動が起き、政権が崩壊してコラリートが廃止されるまでには1年以上かかった。
この6月で、ブケレが大統領になってから2年が経過した。実績を残したい、エルサルバドル経済を再建した男として記憶されたい、と思う日もあるだろう。そうは言っても、ひたすら直感で統治するのがこの男のスタイルだ。
ビットコインで財政再建などという妄想は、さっさと捨てるべきだ。さもないと怒れる民衆が大統領宮殿を包囲し、火を放つだろう。
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