最新記事

イラン

イラン核交渉の妥結が、大統領選挙に間に合わなかったせいで起きること

A Missed Opportunity

2021年6月22日(火)16時40分
アレックス・バタンカ(米中東問題研究所上級研究員)

最も現実的な代替案に近いのは、6月初旬にロバート・メネンデス上院議員(民主党)とリンゼー・グラム上院議員(共和党)が、ワシントン・ポスト紙への共同寄稿で示した案だろう。両議員は、中東に核燃料バンクを設置して、イランをはじめとするペルシャ湾岸諸国に濃縮ウランを供給する仕組みをつくるべきだと主張した。そうすれば、イランはもとより、やはり核開発に意欲を示しているアラブ首長国連邦やサウジアラビアにも、濃縮ウランの独自製造を断念させることができるというのだ。

堅実なアイデアだが、現実味は乏しい。というのも、既にこの案はイランに対して提案され、拒絶されているからだ。むしろイランは、独自のウラン濃縮能力を維持することに強くこだわってきた。自らの国力を増強するために核開発をしようとしているのに(そしてそのために既に何十億ドルも投じてきたのに)、肝心の濃縮ウランの獲得をよそに頼れるわけがない。

バイデン政権はアメリカ国内、とりわけ米議会内で対イラン政策に関して強固な支持を得ていない。このため、ウィーンでは不要な譲歩を一切しない構えだ。

ブリンケンも6月8日の米上院公聴会で、たとえ再建合意が成立しても、「数百の制裁が残る」との見方を示した。また、イランが「態度を変えたとき」に初めて、米政府は核開発とは無関係の分野の制裁解除を検討し始めるだろうとも語った。

イランが最も恐れていること

こうした強気な発言は、バイデン政権の国内向けのアピールだが、イラン政府としては、それだけでも米政府に大きな要求を突き付けざるを得ない。例えば、イランの最高指導者アリ・ハメネイが「検証可能な制裁緩和」と呼ぶもの。外国企業が制裁破りだとして処罰を受ける心配なく、イラン企業と取引を行える環境を保証してほしいというわけだ。

イラン政府が何より恐れているのは、アメリカが制裁の呼び名を変えるだけで、実質的にこれまでと同じ締め付けを維持することだ。

イラン国内の事情もある。核合意の立て直しのタイミングについては、現体制の間でも意見が割れている可能性があるが、ハメネイとしては、大統領選前に合意をまとめたかった可能性は十分ある。

なぜか。8月に任期満了を迎えるハサン・ロウハニ大統領のはなむけとしてではない(ハメネイはロウハニと折り合いが悪いことで有名)。次期大統領選出が確実とみられているイブラヒム・ライシ司法府代表を守るためだ。(編集部注:イラン内務省は6月18日、大統領選でのライシの勝利を発表した)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アクティビスト、世界で動きが活発化 第1四半期は米

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中