イラン核交渉の妥結が、大統領選挙に間に合わなかったせいで起きること
A Missed Opportunity
最も現実的な代替案に近いのは、6月初旬にロバート・メネンデス上院議員(民主党)とリンゼー・グラム上院議員(共和党)が、ワシントン・ポスト紙への共同寄稿で示した案だろう。両議員は、中東に核燃料バンクを設置して、イランをはじめとするペルシャ湾岸諸国に濃縮ウランを供給する仕組みをつくるべきだと主張した。そうすれば、イランはもとより、やはり核開発に意欲を示しているアラブ首長国連邦やサウジアラビアにも、濃縮ウランの独自製造を断念させることができるというのだ。
堅実なアイデアだが、現実味は乏しい。というのも、既にこの案はイランに対して提案され、拒絶されているからだ。むしろイランは、独自のウラン濃縮能力を維持することに強くこだわってきた。自らの国力を増強するために核開発をしようとしているのに(そしてそのために既に何十億ドルも投じてきたのに)、肝心の濃縮ウランの獲得をよそに頼れるわけがない。
バイデン政権はアメリカ国内、とりわけ米議会内で対イラン政策に関して強固な支持を得ていない。このため、ウィーンでは不要な譲歩を一切しない構えだ。
ブリンケンも6月8日の米上院公聴会で、たとえ再建合意が成立しても、「数百の制裁が残る」との見方を示した。また、イランが「態度を変えたとき」に初めて、米政府は核開発とは無関係の分野の制裁解除を検討し始めるだろうとも語った。
イランが最も恐れていること
こうした強気な発言は、バイデン政権の国内向けのアピールだが、イラン政府としては、それだけでも米政府に大きな要求を突き付けざるを得ない。例えば、イランの最高指導者アリ・ハメネイが「検証可能な制裁緩和」と呼ぶもの。外国企業が制裁破りだとして処罰を受ける心配なく、イラン企業と取引を行える環境を保証してほしいというわけだ。
イラン政府が何より恐れているのは、アメリカが制裁の呼び名を変えるだけで、実質的にこれまでと同じ締め付けを維持することだ。
イラン国内の事情もある。核合意の立て直しのタイミングについては、現体制の間でも意見が割れている可能性があるが、ハメネイとしては、大統領選前に合意をまとめたかった可能性は十分ある。
なぜか。8月に任期満了を迎えるハサン・ロウハニ大統領のはなむけとしてではない(ハメネイはロウハニと折り合いが悪いことで有名)。次期大統領選出が確実とみられているイブラヒム・ライシ司法府代表を守るためだ。(編集部注:イラン内務省は6月18日、大統領選でのライシの勝利を発表した)