国民の不安も科学的な提言も無視...パンデミック五輪に猛進する日本を世界はこう見る
A REFUSAL TO FACE REALITY
五輪を取材する日本在住の記者は、来日したばかりの外国人記者とメディアセンターで接触する。その後に公共交通機関で帰宅したり、買い物をしたり、保育園に子供を迎えに行く。つまり、一般人と外国報道陣は間接的に接触することになる。
「プレイブック」と呼ばれる感染防止策の手引書も、実効性が問われる項目が少なくない。例えば報道関係者の間の密を避けることは、現実的には難しい。
6月1日にオーストラリアの女子ソフトボール選手団が群馬県太田市に到着した際には、狭い場所に数十人のカメラマンや記者が集まった。筆者も現場にいたが、1人当たり70センチ四方程度のスペースしかなかった。だが記者は文句を言わないし、言えない。言えば自分の仕事ができなくなるからだ。
海外報道陣の行動制限は物理的に無理
来日する予定の8000人の海外報道陣は試合だけでなく、幅広いテーマについて取材するのが目的だ。「それは禁止だ、行動を監視する」と政府が強調しても、既に一部の海外記者は監視されないように戦略を考えている。例えば、記者はスマートフォンで自分の位置情報を政府に報告することが求められるが、それはあくまでスマホの位置情報だ。日本にスマホを2台持ってくれば大丈夫だと考えている記者もいる。
来日前に取材計画を提出するのも義務だが、日本にいない記者が一体どうやって細かい計画を立てることができるのか。8000人の記者の計画を誰がチェックして、許可を出すのか。物理的に可能なのか。結局、記者を含めて来日する7万8000人に外せないGPS電子タグを着けさせない限り監視は無理だろう。
そもそも日本政府は開催反対、または抵抗を示す専門家の意見を軽視しがちだ。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は国会の専門委員会で何度も、大会開催が起こす感染リスクについて発言した。6月1日には「五輪をやれば、さらに医療に負担がかかるリスクがある」、2日には「今のパンデミックの状況で開催するのは、普通はない」と述べた。
しかし、こうした意見は政府や組織委員会に無視される。丸川珠代五輪相も「われわれはスポーツの持つ力を信じて今までやってきた。全く別の地平から見てきた言葉をそのまま言っても、なかなか通じづらい」と、尾身発言を片付けた。最近は政府や自民党から尾身への不満の声まで上がり始めている。