最新記事

人権

日本の大学教員だった父を突然、中国当局に拘束されて

2021年6月9日(水)18時30分
袁成驥(えん・せいき)
北海道教育大の袁克勤教授

拘束されている袁克勤氏(左)と母、成驥氏(2017年7月)Courtesy Yuan Chengji

<北海道教育大の袁克勤(えん・こくきん)教授は2年前の2019年5月、帰省先の中国吉林省で長春市国家安全局に突然拘束され、その後2020年3月まで全く消息不明だった。現在は詳細不明のスパイ容疑をかけられているが、中国籍であるがゆえに日本政府も手が出せない。父を奪われた長男・成驥氏の慟哭と怒りの手記>

2019年5月29日、中国吉林省長春市内にある長春駅の近くで私の父、袁克勤は長春市国家安全局員によって突然身柄を拘束された。父はその4日前の5月25日に彼の母、つまり私の祖母の葬儀に参列するため中国へ一時帰国していた。突然の拘束は28日に無事に葬儀を終えて、日本へ帰国する途上での出来事だった。

葬儀の翌日29日に長春駅の駐車場に到着した父は、その場にいた私の母とともに、突如、国家安全局の男たちに囲まれて、頭から黒い袋を被せられ、その場で彼等の車に押し込まれて連行された。その後、父の身柄は長春市第3看守所へ送られ、母だけが拘束の3日後に解放された。

母はその後、国家安全局の指示を受けて日本へ一時帰国し、札幌の自宅に残っていた父のパソコンや電子機器類を持って再び中国へ戻った。その際に母は、父は病気の治療のため中国から戻ることができないのだと、北海道教育大学へ説明した。父の拘束について決して口外してはいけないと中国当局から脅されていた母は、そうする他なかったのだろう。

スパイの証拠は一切非開示

その後、1人で全てを隠すことに耐えきれなくなった母は父の親族へ拘束の事実を打ち明けた。それを知った父の親族は、父の逮捕や拘束を証明する書類の発行を中国当局へ求めた。それら証明書は、本来であれば法的に中国当局は発行する義務があるにも関わらず、申請は全て却下された。

父が拘束されてから、すでに2年以上が経っている。この2年間、私は父の顔を見ることも、父の声を聞くことも、一度も出来ないままでいる。そもそも、なぜ父が中国当局によって拘束されたのか、明確な理由すら未だに知ることが出来ていない。中国当局によれば、父は「スパイ容疑」で捕らえられたという。しかしながら、果たして父が具体的にどのようなスパイ行為をしたのかについて、当局からの説明は全くない。スパイ容疑を裏付けるような証拠なども一切開示されていない。あまりにも強引で一方的すぎる今回の拘束を、私は絶対に認めない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

商船三井の今期、純利益を500億円上方修正 市場予

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高の流れを好感 徐々に模

ワールド

トランプ氏「BRICS通貨つくるな」、対応次第で1

ワールド

米首都の空中衝突、旅客機のブラックボックス回収 6
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中