最新記事

中国

三人っ子政策に中国国民の反応は冷ややか 「二人目さえ欲しくない」理由

China’s Three-Child Policy Won’t Work

2021年6月9日(水)18時57分
ブライアン・ウォン(オックスフォード・ポリティカル・レビュー誌編集長)
上海で双子の娘たちを連れた父親

上海の街で双子の娘たちを連れて通りを渡ろうとする父親 ALY SONGーREUTERS

<今後の人口減を危惧して中国政府は少子化対策に大きく舵を切ったが、この政策が機能しない理由が3つある>

中国の出生率が下がり続けている──そんな懸念すべき傾向が、5月半ばに発表された国勢調査の結果で確認された。中国国内では以前から、日本のように人口減に伴う労働力不足に見舞われるのではないかと危惧されていた。

中国政府は少子化対策として2016年、それまで30年以上続けてきた「一人っ子政策」を廃止した。だが効果が芳しくなかったため、この5月31日、第3子までの出産を許可するとした。「三人っ子政策」の導入ということになるが、いつどのように施行されるかは明らかではない。

今までも専門家からは、人口政策の見直しの必要性を指摘する声が一貫して多かった。北京のシンクタンク「中国・グローバル化センター(CCG)」で人口問題を研究する黄文政(ホアン・ウェンチョン)は、以前から21~22年に人口減が起こると警告し、出生数の減少から想定される数々の危険を指摘してきた。国勢調査で冷厳な事実を突き付けられた格好の中国政府が、行動を起こす必要性を感じたのは当然かもしれない。

しかし多くの国民は、「三人っ子政策」に懐疑的な目を向けている。すぐに3つの批判が噴き出した。

「2人目さえ望んでいない」

第1に「三人っ子政策」は、中国人(特に新興の中間層や富裕層)が子供を持ちたがらない根本的な理由を考えていない。人口学者の何亞福(ホー・ヤーフー)がニューヨーク・タイムズ紙に語ったように、「多くの人は3人目どころか、2人目さえ望んでいない」のだ。

産児制限の撤廃だけでは、構造的な障壁はなくならない。子づくりを抑制する一番の要因は、将来も豊かな暮らしができるかどうかだ。育児や教育のコストは、これから子供をつくろうとする夫婦にとって大きな足かせになる。

ネット上には「子供を3人産むなら、夫を3人探さなきゃ。お金がかかり過ぎる!」とぼやく声もある。中国では生活費も住居費も教育費も高騰しており、特に大都市ではその傾向が強い。

共産党の青年組織の機関紙「中国青年報」の社会調査センターが今年3月にミレニアル世代(2000年前後に成人した世代)の1938人を対象に行った調査では、2人目の子供をつくらない大きな理由として、家事を手伝う人がいないことを挙げた回答者が全体の67%に達した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中