「研究所流出説」を甦らせた素人ネット調査団、新型コロナの始祖ウイルスを「発見」!
Exclusive: How Amateur Sleuths Broke the Wuhan Lab Story
世界で最も多くコロナウイルスを収集してきた研究所のすぐそばで、未知のコロナウイルスの集団感染が発生したとなると、研究所から流出した疑いを持つのは理の当然だ。ダザックはすかさずそれに待ったをかけた。他の26人の科学者と連名で2020年2月19日、医学誌ランセットで公開書簡を発表。「新型コロナウイルス感染症が自然な発生源を持たないことを示唆する陰謀論を、私たちは断固として非難する」と宣言したのだ。
今では情報自由法の請求記録から、ダザックが研究所流出説を潰すための公開書簡の作成を主導したことが分かっている。彼は書簡の草案を作成し、仲間の科学者たちに署名させて、それが幅広い科学者の見解を示すものに見えるように画策したのだ。
ダザックは科学者たちに署名を求めるメールの中で、「この声明にはエコヘルス・アライアンスのロゴは入らないし、特定の組織や人物が作成したものだと特定されることはない」と確約していた。武漢ウイルス研究所と研究内容が重なる科学者たちは、「(署名から)研究内容を逆にたどられることがないように」署名しないことで同意した。
だが当時、ダザックが果たした役割については、それをほのめかす兆しもなかった。公開書簡が発表されたことがきっかけでメディアに頻繁に登場するようになったダザックは、研究所流出説を「不合理」「根拠に欠ける」「完全なでたらめ」と一蹴した。彼はまた、同研究所につながる証拠を発表した複数の科学者を攻撃。研究所流出説が理にかなわない理由の一部として、武漢ウイルス研究所では、新型コロナウイルスに少しでも似ているウイルスを一切培養していなかったと主張した。
コウモリウイルスの専門家、石正麗
ダザックは長期にわたって、驚くほど大きな影響力を持ち続けた。彼のしたことが公にされれば、彼のキャリアも組織も大きな打撃を受けただろうが、メディアがそうした疑問を提起することはほとんどなかった。
皮肉にもダザックの「共犯」となったのが、ドナルド・トランプ前米大統領だった。「中国ウイルス説」を唱えるトランプ政権がエコヘルス・アライアンスへの助成金を打ち切ると、メディアはダザックを陰謀論者たちの「犠牲者」として同情的に取り上げたのだ。
シーカーは、2020年前半までにはその考え方に疑問を抱くようになっていた。そこで、通説のあら探しをしていた人々とのやり取りを始めた。
その中で見つけた重要な情報が、カナダの起業家ユーリ・デイギンによる、オンラインプラットフォーム「メディウム」への投稿だ。デイギンはこの中で、石正麗が2月3日に科学誌ネイチャーで発表したウイルス「RaTG13」を取り上げていた。石正麗は論文の中で、新型コロナウイルスについての詳細な分析結果を紹介。新型コロナウイルスと遺伝子レベルで似ているウイルスとして、「RaTG13」(コウモリコロナウイルス)を挙げていた。