ワクチン血栓の原因解明か アストラ/ジョンソン製改良へ手掛かり 独研究
アストラゼネカ製とジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンで血栓が起きる原因が解明か...... REUTERS/Lim Huey Teng
<ウイルスベクターワクチン接種後の血栓症は、体内で遺伝情報を複製した後で起きるエラーが原因だとの可能性が示された>
アストラゼネカ製およびジョンソン・エンド・ジョンソン製のウイルスベクターワクチンでは、血栓による重篤な副作用が報告されている。ゲーテ大学のロルフ・マーシャレック教授たち研究チームは、この原因を突き止めたと発表した。研究成果は現在、正式な査読前のプレプリントの状態で公開されている。
論文の詳細は後述するが、ごく簡単に要約すると次のようになる。ワクチンからの遺伝情報が細胞内で複製された後で、不要部分を取り除くクリーンナップ作業が行われる。この際、ごく稀にエラーが発生し、誤った位置で遺伝情報が切断され、不正なたんぱく質の生成を招いているというものだ。
ワクチンによる血栓症の発生率は稀であり、イギリスでは3300万回行われた接種のうち、血栓が確認されたのは309件、死亡に至った件数は56件となっている。しかし、重篤な副作用を懸念し、デンマーク、ノルウェー、オーストリアなどが使用停止に踏み切ったほか、他にも複数の国が高齢者への接種を中止している。教授はワクチンの改善ポイントを製造各社に伝える用意があるとしており、実現すればより安全な接種に結びつきそうだ。
「運び屋」を利用するウイルスベクターワクチン
アストラゼネカ製とジョンソン・エンド・ジョンソン製は、どちらもウイルスベクターワクチンに分類される。エラーのメカニズムをもう少し詳しく見るため、前提としてそのしくみをおさらいしたい。
ベクターワクチンの「ベクター」とは、運び屋という意味だ。ワクチンの成分であるDNAを細胞核に送り込むため、風邪ウイルスを無害化して運び屋として利用する。このDNAは、新型コロナウイルスの構造に似たたんぱく質を生成するための設計図になっている。細胞核にたどり着いたDNAは鋳型の役割を果たし、一旦たんぱく質のレシピであるmRNAに転写される。
続いてmRNAは、細胞核を取り巻くリボソームへと届けられる。リボソームは受け取ったレシピに従い、新型コロナウイルスの外側の構造である「スパイクたんぱく質」を合成する。結果、ウイルスと同様のスパイク構造が細胞の表面に現れるしくみだ。体内の免疫システムがこれを発見し、本物のウイルスの侵入に備えた抗体が生成される。
「スプライシング」過程でのエラーが疑われている
話を血栓に戻そう。研究チームは、DNAの鋳型からmRNAを生成した後のプロセスに問題があると踏んでいる。このとき単に転写するだけでは、完全なmRNAとはならない。転写後、たんぱく質の生成に不要な部分を除去する「スプライシング」と呼ばれるクリーンナップ作業が必要だ。
教授たちの研究によると、この段階で稀に転写範囲を取り違えるエラーが起きるのだという。本来切り取るべきでない場所で遺伝情報が編集され、不正なmRNAが発生する。
こうして発生した誤ったmRNAにより、細胞壁に同化できない変異型のスパイクたんぱく質が生成され、それが細胞外に流出することで炎症反応を誘発する。また、変異したスパイクたんぱく質を攻撃するための抗体が生成されることや、脳の静脈特有の特殊な血流にさらされることなど、複数の条件が組み合わさって血栓が発生すると研究チームは考えている。