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インタビュー

山口香JOC理事「今回の五輪は危険でアンフェア(不公平)なものになる」

2021年6月8日(火)06時40分
西村カリン(仏リベラシオン紙東京特派員)

オリンピックはマイナースポーツのためにあると、私は思っている。正直に言えば、サッカー、テニス、ゴルフにオリンピックは必須ではない。テニスなら全仏オープンやウィンブルドンがあり、そこで優勝するほうがよっぽど価値があるし、サッカーだってワールドカップがある。

でも、馬術やウエイトリフティングなど普段はそれほど注目されないスポーツにとって、五輪は多くの人に見てもらい、全ての選手がスターになれる4年に一度のチャンスになる。それなのに、オリンピックなんてもういいよ、となったら? 多くのマイナースポーツが大きなダメージを受けると思う。

「あなたはアスリートでオリンピックにも出たのに、(開催に対して)ネガティブな意見をするってどういうことだ」と言われることがある。でも私は、何も言わない人のほうが無責任だと思う。

オリンピックは今回で終わりじゃない。未来につながっていく。子供たちの夢になっていく。

それにマイナースポーツは税金を入れてもらわないと、強化できないのが現実。柔道もそうだが、多くのスポーツは国民の応援があって、税金を使って強化を行っている。

だから今後も、国民に応援してもらうために、スポーツの世界にいる人々が国民と向き合ってオリンピックについて議論するべき。国民の不安や疑問を踏まえた上でオリンピックをどのように開催するかを考え、私たちから政府に言っていきましょう、というムーブメントを起こさなければならないと思う。

「『負けるから議論しない』では、やる前から負けている」

――JOC関係者などから、発言について圧力をかけられるようなことはないか?

一般の人からメールで批判を受けたり、SNSで書かれたりすることはあるが、JOCの中で私に面と向かって意見する人はいない。

これは日本という国の縮図ですね。きっと議論したくないんですよ。

もしかしたら、(私の言うことに)賛同している人もいるのかもしれない。だから逆に議論したくないのかもしれない。国民と開催の是非について議論して、その先に中止の結論があったら困るから。

この思考がダメなんです。いろいろな分野で日本が世界の中で競っていくときに、「議論したら負けるから議論しない」では、結局、やる前から負けている。今が、そのことに気付くチャンスだと思う。

若い世代にそこに気付いてほしい。若い人たちがこの国を変えなきゃ。議論できる国にしなきゃ。スポーツの世界でも、若い人たちがもっと意見を言って、「こうやっていきましょう」というムーブメントが起きる未来に期待したい。

(※日本の常識は世界の非常識だった――。本誌6月15日号では、パンデミック五輪に猛進する日本の現状をリポート。デーブ・スペクター氏もインタビューで「オウンゴール」「日本の素晴らしい貢献」「テレビ局の五輪事情」を語った)

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