最新記事

インド

インドの「スーパースプレッダーイベント」、虚偽のコロナ検査記録10万件発覚

2021年6月22日(火)18時30分
青葉やまと

ランダムな携帯番号で検査をねつ造

こうした突然の検査通知は、検査機関による検査数水増しにより発生したと考えられている。検査を実施したのは州政府に加え、州政府と契約を結んだ24の民間検査機関だ。検査機関がインド医療研究協議会(ICMR)のポータルサイトに実績データを登録し、州政府が検査数を把握する運用となっていた。

ICMRのサイトに個人情報と検査結果が登録されると、システムは検査を受けた本人に対して半自動的にSMS通知を送信する。本人がSMSに記載されたURLを開くと、検査結果を確認できる手はずだ。

ところが、検査数を稼ごうとした検査機関が架空のデータとランダムな携帯番号をシステムに登録したことで、無関係の人々に検査完了通知が送信される事態となった。医療当局は疑念の渦中にある検査記録一覧を現地紙に対して開示したが、そのなかにはほかにも不審な事例が数多く確認されている。検査記録に苗字が入力されていないケースや、同じ苗字があまりにも多く繰り返して現れるケースなどがこれに当たる。

本件はインド国外でも問題として報じられるようになった。英BBCは、虚偽記録の件数は10万件以上に上り、架空の氏名や携帯番号に加えて存在しない住所が使われていたと述べている。英インディペンデント紙も「報道によるとこの大規模な祭典中、10万件以上の偽のコロナ検査が実施された」と述べ、大規模な不正疑惑を伝えている。事態を重く見たウッタラカンド州政府は、警察に対し本件の捜査を命じ、警察は2つの民間検査機関に対して調査を進めている。

さらなる不正が明るみに

タイムズ・オブ・インディア紙は6月20日、本件の続報を発表した。これまでに不正検査が指摘されている2つの検査機関に加え、さらに多くが不正に関与していた可能性に言及するものだ。新たに疑惑の対象となった民間検査機関の一つは、1つの携帯番号を複数の検査記録に流用するという大胆な手口に出ていた。

インド南部のチェンナイに住むランジット・クマール氏は大祭期間中の4月16日、ニューデリーの南西約30キロに位置するグルグラムの街の検査機関から、5通のSMSを受信した。内容は検査結果の陰性を報せるものだが、同一の携帯番号に届いたにもかかわらず、奇妙なことにそれぞれ異なった名前が宛先に記されていたという。クマール氏は検査を受けていないことから、問題のラボが検査件数を稼ぐため、氏の番号を無断利用して実績をねつ造していたものと見られる。

ニューデリー在住のジャーナリストの元にも、検査結果を告げる偽のメッセージが届いている。ジャーナリストはウッタラカンド州知事に苦情を申し立てたが、知事は技術的なエラーが原因だろうと話しており、当初は不正の存在を認めない構えだったという。

クンブメーラに関してはこれまでにも参加者のうち2600名以上から陽性反応が得られ、感染爆発を招いたとして厳しい批判の対象になっていた。今回の不始末はこれに続き、感染者把握のための検査網が正しく機能していなかったことを示すものとなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中