文在寅に「勝利」を与え、インド太平洋戦略に韓国を取り込んだバイデンの成功
Beyond the Korean Peninsula
韓国は、中国や日本など大国に囲まれていることから、「クジラに囲まれたエビ」と呼ばれることがある。歴代大統領は、国防面で最も頼りになるアメリカと、最大の貿易相手国である中国のどちらも過度に怒らせないよう、難しい舵取りを強いられてきた。
なにしろ、そのバランスが崩れたときの痛手は大きい。韓国が2016年に、アメリカが開発した地上配備型ミサイル迎撃システム「THAAD(高高度防衛ミサイル)」の配備を決定したときの、中国の反応がいい例だ。
韓国にTHAADが配備されれば、中国のミサイルも監視され、国家安全保障が脅かされる──中国政府はそう考えた。このため、韓国政府が反対を押し切ってTHAADを配備すると、中国政府はすぐさま一連の報復措置に出た。
中国から韓国への団体旅行は禁止され、韓国製モバイルゲームの認可がストップし、Kポップのコンサートは禁止、THAADの配備場所を提供したロッテ・グループの中国国内店舗は閉鎖に追い込まれた。こうした報復措置が韓国経済に与えた損失は17年だけでも推定75億ドル(GDPの0.5%)に達した。
だが、こうした中国の「いじめ」は、韓国における反中感情に火を付けることになった。中国の新型コロナウイルス感染症への対応や、韓国の国民食キムチについて突然浮上した「中国起源説」も、韓国人の怒りを買った。
そんな反中感情が形となって表れたのが、「江原道チャイナタウン」に対する反対運動だろう。来年の中韓国交正常化30周年の記念プロジェクトだが、韓国大統領府の国民請願ウェブサイトには、計画中止を求める署名が50万筆以上集まったという。
トランプ時代と大違い
こうした韓国のトレンドは、アメリカ(と日本)が主導するインド太平洋戦略に韓国を引き込み、対中ブロックを拡大する上で好都合だ。バイデン政権は、発足早々に前政権でストップしていた在韓米軍の駐留経費負担交渉をまとめるなど、韓国との同盟強化を図ってきた。
韓国にとっても、バイデンの戦略的なアプローチは、ドナルド・トランプ前米大統領時代のどぎつい対中政策よりも受け入れやすい。最終的には、アメリカの後押しを受け、日米豪印戦略対話(クアッド)に正式参加することもあるかもしれない。