最新記事

米韓関係

文在寅に「勝利」を与え、インド太平洋戦略に韓国を取り込んだバイデンの成功

Beyond the Korean Peninsula

2021年5月31日(月)16時15分
ガブリエラ・ベルナル

韓国は、中国や日本など大国に囲まれていることから、「クジラに囲まれたエビ」と呼ばれることがある。歴代大統領は、国防面で最も頼りになるアメリカと、最大の貿易相手国である中国のどちらも過度に怒らせないよう、難しい舵取りを強いられてきた。

なにしろ、そのバランスが崩れたときの痛手は大きい。韓国が2016年に、アメリカが開発した地上配備型ミサイル迎撃システム「THAAD(高高度防衛ミサイル)」の配備を決定したときの、中国の反応がいい例だ。

韓国にTHAADが配備されれば、中国のミサイルも監視され、国家安全保障が脅かされる──中国政府はそう考えた。このため、韓国政府が反対を押し切ってTHAADを配備すると、中国政府はすぐさま一連の報復措置に出た。

中国から韓国への団体旅行は禁止され、韓国製モバイルゲームの認可がストップし、Kポップのコンサートは禁止、THAADの配備場所を提供したロッテ・グループの中国国内店舗は閉鎖に追い込まれた。こうした報復措置が韓国経済に与えた損失は17年だけでも推定75億ドル(GDPの0.5%)に達した。

だが、こうした中国の「いじめ」は、韓国における反中感情に火を付けることになった。中国の新型コロナウイルス感染症への対応や、韓国の国民食キムチについて突然浮上した「中国起源説」も、韓国人の怒りを買った。

そんな反中感情が形となって表れたのが、「江原道チャイナタウン」に対する反対運動だろう。来年の中韓国交正常化30周年の記念プロジェクトだが、韓国大統領府の国民請願ウェブサイトには、計画中止を求める署名が50万筆以上集まったという。

トランプ時代と大違い

こうした韓国のトレンドは、アメリカ(と日本)が主導するインド太平洋戦略に韓国を引き込み、対中ブロックを拡大する上で好都合だ。バイデン政権は、発足早々に前政権でストップしていた在韓米軍の駐留経費負担交渉をまとめるなど、韓国との同盟強化を図ってきた。

韓国にとっても、バイデンの戦略的なアプローチは、ドナルド・トランプ前米大統領時代のどぎつい対中政策よりも受け入れやすい。最終的には、アメリカの後押しを受け、日米豪印戦略対話(クアッド)に正式参加することもあるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中