最新記事

米韓関係

文在寅に「勝利」を与え、インド太平洋戦略に韓国を取り込んだバイデンの成功

Beyond the Korean Peninsula

2021年5月31日(月)16時15分
ガブリエラ・ベルナル
文在寅韓国大統領とバイデン米大統領

韓国の文在寅大統領とジョー・バイデン米大統領の首脳会談は、両国にとって大きなプラスをもたらした THE WHITE HOUSE

<「米韓関係の重要性は、朝鮮半島を大きく超える」──首脳会談の共同声明でアメリカ重視を明言した韓国。その姿勢がインド太平洋戦略にもたらすのは>

ジョー・バイデン米大統領は5月21日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を招いた初の首脳会談で、外交上の重要な得点を挙げた。米韓関係を強化するだけでなく、アメリカのインド太平洋戦略に韓国を大きく取り込むことに成功したのだ。

アメリカと中国がアジアの覇権をめぐり競争するなか、これまでの韓国は、どっちつかずの態度を取ることが多かった。だが、今回は違う。

会談後に発表された共同声明は、慎重に言葉を選びつつ、「米韓関係の重要性は、朝鮮半島を大きく超える」と明言。「これは両国の共通の価値観に根差しており、インド太平洋地域に対する両国それぞれのアプローチの要となる」と唱えている。

バイデンと文はさらに踏み込み、「韓国の新南方政策(NSP)と、アメリカの自由かつオープンなインド太平洋というビジョン」を一致させ、「安全で豊かでダイナミックな地域をつくる」ために協力するという。新南方政策とは、文が打ち出した東南アジア戦略だ。

声明には、中国という言葉は一切出てこないが、この地域における中国の抑止を念頭に置いていることを示唆する言葉が多数含まれている。

例えば「メコン川流域」。米韓は、「メコン川流域の持続可能な開発と、エネルギー安全保障、そして責任ある水管理を推進する」という。これは、東南アジア最長の川であるメコン川で、上流に位置する中国のダム建設活動により、タイやベトナムなど下流域の国々で水不足などが起きている問題を示唆している。

「南シナ海」という言葉も出てくる。米韓は「南シナ海における航行と飛行の自由」など「平和と安全、合法的でスムーズな商業活動、そして国際法の尊重を維持することを誓う」というのだ。

中国をいら立たせる要素

南シナ海における中国の拡張主義的な活動については、これまで日本が沿岸諸国と積極的に協力してきたのに対して、韓国は控えめな態度を取ってきた。だが、21日の声明は、韓国がその姿勢を転換した可能性を示している。

南シナ海に言及するだけでも中国をいら立たせるには十分だが、共同声明はさらにセンシティブな問題、つまり台湾にも言及している。「バイデン大統領と文大統領は、台湾海峡の平和と安定を維持する重要性を強調する」と。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米下院、エプスタイン文書公開巡り18日にも採決 可

ワールド

国連安保理、トランプ氏のガザ計画支持する米決議案を

ワールド

米大学の25年秋新規留学生数、17%減 ビザ不安広

ビジネス

ティール氏のヘッジファンド、保有エヌビディア株を全
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中