「鬼滅の刃」世界的人気! 韓国でも反日感情を跳ね返す躍進続く
‘DEMON SLAYER’ SWEEPS SOUTH KOREA
近代的な要素が初めて見えてくるのは、主要キャラが浅草を訪れる場面だ。浅草の町に新古典主義様式の高層建築がそびえ、伝統的な和装の人々と洋装の人々が行き交う。大正時代の文化様式やファッションを美化する「大正ロマン」の風潮は、他の作品でも見受けられる。ひょっとすると『鬼滅の刃』の作者もこの風潮に倣い、20世紀前半を舞台に伝統と近代性が交差するなかで、鬼が跋扈(ばっこ)する状況を描こうとしたのかもしれない。だが普通、20世紀前半の日本を描いた作品は韓国ではなかなか受けない。
こうした歴史的背景に拍車を掛けるのが炭治郎の耳飾り。韓国では日本の軍国主義の象徴とされる旭日旗を連想するとの声もあった。こうした見方に配慮して、映画でもネットフリックスのTVシリーズでも旭日旗に見えないデザインに修正された。
しかし、さまざまな障害にもかかわらず、劇場版『鬼滅の刃』は韓国で大成功を収めている。もっとも観客の評価は複雑だ。韓国第2位のポータルサイト、ダウム(親文在寅政権派や民族主義的なユーザーが多いとされる)では10点満点中5.9点。多くの人が日本を批判するコメントを添えて1点を付けた。一方、ポータルサイト最大手のネイバーでは9.31点となっている。
日本では第4次韓流ブーム
似たような現象は日本でも起きている。20年2月からネットフリックスで配信されている韓国ドラマ『愛の不時着』が、不安定な日韓関係をものともせず、大ヒットしたのだ。今年1月からは東京、大阪、福岡で『愛の不時着展』が開催されている(名古屋は6月4日から開催予定)。
日本の「韓流」人気そのものは、今に始まったわけではない。外務省が4月に発表した2021年版外交青書には、Kポップや韓国ドラマが「世代を問わず幅広く受け入れられ」、特に『愛の不時着』は20年の「流行語大賞の候補にも選ばれるほどの人気を集め、第4次韓流ブームの火付け役になった」とある。
『愛の不時着』人気が特別と言える点は、韓国での『鬼滅の刃』のヒットと同じように、いかにも失敗しそうな背景があることだ。何しろ『愛の不時着』は北朝鮮にスポットライトを当てている。
日本における北朝鮮のイメージは、1998年の「テポドン・ショック」以降の核ミサイル開発、70~80年代を中心とする日本人拉致事件、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)などに集約される。それを考えると、北朝鮮の将校を主人公に北朝鮮の生活をドラマチックに描いたドラマが大ヒットするのは、確かに意外だ。
恋愛ドラマとしては珍しく、年配の男性も取り込んでいる。20年7月に毎日新聞の山田孝男特別編集委員は、茂木敏充外務大臣に『愛の不時着』を見たかと聞いて、「全部見た。遅いよ」と笑われたという。