最新記事

感染症対策

欧州各国、コロナ検査キット無償配布 一方で製薬会社の「暴利」批判も

2021年5月15日(土)12時55分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

タダより高いものはない?

ところで国の負担だから支払いは必要なかったものの、筆者が受け取ったC薬局では、2パックで60フラン(約7千円)とレジのモニターに表示された。1パック30フランは、1箱25個入り137.5フラン(プラス付加価値税)の5分の1ということだが、スイス連邦保険局の『新型コロナウィルスにおける各種検査の費用負担に関するファクトシート』において、スイス政府は1個につき最大12フランを負担すると明記している。つまり、1パックで最大60フラン負担ということになる。

60フランのうち、薬局への報酬として約20フラン(1個につき3~4フラン)が支払われるという。ロシュはSDバイオセンサーから1個1フランで購入しているのではないかという報道もあり、これが本当ならば、ロシュは1パックにつき最大35フランの利益を得ることになる。

しかし、ロシュのウェブサイトには、国は1パックにつき12フランを負担すると記載がある。これが本当ならば、ロシュの儲けは1パックにつき7フランにとどまる。

テレビの情報番組「ルンドシャウ」でも、ファクトシートに記載されたように1個12フランの負担だと紹介していた。同番組では、ロシュのセヴェリン・シュワン最高経営責任者(CEO)とインタビューを行い、検査キットの利益についても聞いている。

キャスターが「1個12フランにつき、御社の利益は4フラン(30%以上の利益率)か」と尋ねると、シュワン氏は「それは間違いで、(遠回しに15~20%の利益率だと意味して)利益はもっと少なめだ」と答えた。キャスターのストレートな問いかけにシュワン氏は少し気分を害したようにも見えた。

シュワン氏の説明通りだとすれば、1パックの儲けは9~12フランだ。薬局の30フランというは無償配布上の形式的なものなのか。実際のところ、利益はどうなのだろうか。

スイス政府は、企業や学校単位での定期検査(PCR検査)の費用も負担するなど、検査体制を強化している。これらの予算は2021年末までの分として、10億フラン(約1170億円)を見込んでいる


s-iwasawa01.jpg[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、WTOに異議申し立て トランプ関税巡り

ワールド

米国務長官、トランプ氏のガザ復興案を擁護 「敵対的

ワールド

トランプ氏、米軍のガザ派遣にコミットせず 「所有」

ワールド

トランプ氏「誰もが気に入る」、波紋広がる「中東のリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 7
    【USAID】トランプ=マスクが援助を凍結した国々のリ…
  • 8
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 9
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 7
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 8
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 9
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中