最新記事

新型コロナウイルス

インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの、償われることのない重罪

Modi Fiddles, India Burns

2021年5月12日(水)20時39分
カピル・コミレディ(ジャーナリスト)

外交官も、モディに批判的な外国メディアにせっせと抗議文を書き送って、モディ政権によるコロナ対策は「あまねく高く評価され」ていると反論している。さらに政府はツイッターとフェイスブックに対し、批判的な投稿を削除するよう命じている。この期に及んでも、首相をカルト的存在として守ることが政府の最優先事項なのだ。

民主的な良識など、モディには無縁だ。国際社会から救援物資が空輸されている状況でも、与党BJPは各地で大規模な選挙集会を開いている。だが国民が文句を言う機会はない。首相として過去7年間、モディは一度も質疑応答のある記者会見を開いていない。

国民へのワクチン接種について言えば、モディはあらかじめ十分な数のワクチンを発注していなかった。しかも接種の責任は州政府に委ねた。結果、ただでさえ財政の苦しい州政府は市場価格でのワクチン確保に悲鳴を上げている。

インドはワクチンの製造能力で世界一だが、国民の命を救うのに必要な量を確保できていない。しかも多くの州は迅速な接種に必要な資金もインフラも欠いている。

「大国」として認められるという妄想

4月後半だけでも、コロナ関連死はインド独立以来の戦死者数の累計を上回る。この国が生き延びるには、最前線の医療従事者に加えて一般市民が立ち上がるしかない。政府が国民を見捨てた以上、ほかに手はない。

国民の利益も幸せも、歴代の政権によって無視されてきた。政治家たちは世界の「大国」として国際社会で認められるという妄想を追うのに忙しかったからだ。

今世紀に入ってから、インドこそ次なる民主主義の超大国だと称揚する本が続々と刊行されてきたのは事実。だが実際には、プリンストン大学の政治学者アトゥル・コーリ教授が言う「二重構造民主主義」に退化していた。つまり「一般国民は選挙の時にのみ必要とされ、投票が済んだら家に帰って政治を忘れ、あとは全てを『合理的』なエリートに任せて企業優先の政治を許す」ような社会だ。

そんな支配層の身勝手な幻想を、新型コロナウイルスは冷酷に打ち砕いた。1%の最富裕層が国富の半分近くをため込む一方、政府が国民の医療に充てる予算はGDPのわずか0.34%。そんな国に民主的超大国の資格はない。

では、これでモディも終わりか? 社会全体に広がる絶望と怒りで、ついにモディ政権は倒れるのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中