最新記事

新型コロナウイルス

インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの、償われることのない重罪

Modi Fiddles, India Burns

2021年5月12日(水)20時39分
カピル・コミレディ(ジャーナリスト)

いや、モディはしぶとい。グジャラート州首相になったばかりの02年、同州ではインド史上最悪の宗教間対立による暴力事件が続発し、モディの在任中に少なくとも1000人以上のイスラム教徒がヒンドゥー教徒によって虐殺された。モディへの風当たりは強まり、ナチス・ドイツのヒトラーに例えられたこともある。当時のアメリカ政府は彼の入国を禁じた。それでも、彼は国内の経済界を味方に付け、自分への悪評を消し去り、気が付けば近代化の旗手と目されていた。

16年の高額紙幣廃止は経済に大きな打撃を与え、多くのインド人の希望を完全に打ち砕いた。それでも有権者の心を巧みに支配するモディの力は弱まらなかった。まるで催眠術だ。高額紙幣廃止の悲劇から数カ月後、モディ率いるBJPはインド最大州の議会選で圧勝している。

今、目の前に広がる惨状は次元が違う。その責任を逃れることはできないが、モディが責任を取り、潔く身を引く気配は全くない。

次の総選挙は3年先だ。インド人は大昔の恨みを晴らすためならいくらでも血を流すが、政治家の悪行に関しては忘れっぽい。

名実共に独裁者に?

モディは国民の忘れやすさを当てにしている。過去の行状から見て、いずれ権力を失う可能性があるからといって意欲を失ったり、弱気になったりする男ではない。そんな状況は彼を元気づけ、より危険な存在にするだけだ。

モディは、いわゆる「ガンジー王朝」の呪縛から解放された最初のヒンドゥー教徒の首相で、植民地時代を含めても最強のヒンドゥー教支配者だ。そして「新インド」というスローガンの父でもある。モディが退場すれば、この空虚な「新インド」も粉々に砕け散るに違いない。

思えば、半世紀近く前のインディラ・ガンジーも政権を追われることを恐れて非常事態を宣言し、憲法を停止し、独裁者に変身したのだった。今まで選挙で負けたことのないモディが、もう選挙では勝てないと気付いたとき、先人ガンジーの例に倣おうとする可能性は否定できない。

死人が街にあふれる現状は彼の無能さ・無謀さをさらけ出しているが、それは彼に民主主義の停止を正当化させる口実を与えるかもしれない。インドの状況は今でも事実上の非常事態に等しいが、この男なら平気で、これを常態化しかねない。

新型コロナウイルスの危機はインド独立以来最大の悲劇だが、それをも自分の利益に変えようとする男。それがナレンドラ・モディだ。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次

ワールド

トランプ大統領、ベネズエラとの戦争否定せず NBC

ワールド

プーチン氏、凍結資産巡りEU批判 「主要産油国の外
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中