最新記事

入管法改正案

「おもてなし」の裏で「ひとでなし」──ラサール石井さんが難民いじめを批判、元五輪選手も入管に危惧

2021年5月11日(火)11時49分
志葉玲(フリージャーナリスト)
入管法「改正」案に反対する会見に出席したラサール石井

ラサール石井さん(右)と指宿昭一弁護士(左)(筆者撮影)

<難民を受け入れない日本の入管法をさらに厳しくしようと急ぐのは東京五輪のためだった?>

難民認定申請者を強制送還できるようにする、送還を拒否すれば1年の懲役も──現在、国会で審議されている入管法の改正案は、かねてから「難民認定率の低い国」としてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)からも名指しされていた日本の難民排斥ぶりに拍車をかける内容だ。

名古屋入管の収容施設で、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが非業の死を遂げたこともあり、著名人の間からも入管のあり方へ疑問視する声が出始めている。今月6日、弁護士や支援団体関係者らが入管法「改正」案に反対する会見を開き、ウィシュマさんの遺族やタレントのラサール石井さんらが発言した。

「安全なはずの日本で何故」嘆く遺族

スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんは「日本の子ども達に英語を教えたい」という夢と共に、2017年に留学生として来日。だが、その後、学費を払えなくなり、通っていた日本語学校の学籍を失ったことで在留資格も失い、昨年8月、名古屋入管の収容施設に収容された。収容当時、コロナ禍で母国への定期便はなく、さらに、当時交際していた男性から帰国したら殺すとも脅迫を受けていた。

そのためウィシュマさんは帰国できず収容は続いたが、今年1月以降、健康状態が著しく悪化。体重が20キロも激減、吐血と嘔吐を繰り返し、まともに食事を取ることすらできないウィシュマさんに、入管は点滴すらさせないなど、適切な治療行為が行わなかった。彼女との面会を行っていた支援団体は、ウィシュマさんを入院させるため、仮放免(就労しない等の一定条件の下、収容施設から解放されること)を入管側に求めていたが許可されず、今年3月6日にウィシュマさんは亡くなってしまったのだ。

ウィシュマさんの2人の妹は今月6日の会見含め複数回、日本の記者達の取材に応じ、「姉との記憶はすべて楽しいものでした」「安全なはずの日本で、なぜ姉は死んでしまったのか、真実を知りたいです」等と語った。

入管法「改正」案の欠陥と害悪

shiba20210511111102.jpg
ウィシュマさん (遺族提供)

入管法「改正」案は、出入国在留管理庁(入管)の権限を強化する一方、「不認定」とされた難民認定申請者や離婚や失職等の事情で在留資格を失った外国人を、入管の裁量のみで無期限に収容するといった問題点は改善しない。支援団体や弁護士らが「仮放免され、入院できたら、ウィシュマさんは助かったかもしれない」と指摘するように、上述した入管行政の欠陥がウィシュマさんを死に追いやった可能性が極めて高いのだ。

さらに、難民認定申請者を強制送還できる例外規定を設けることは、「(迫害される危険性のある人を送還してはいけないという)国際法の原則に反する恐れがある」(入管法「改正」案へのUNHCRの意見書)、「日本に来ているミャンマー難民達が送還されることになりかねない」(入管問題に詳しい高橋済弁護士)など、深刻な人権侵害・国際法違反が大規模に行われる事態に発展しうるのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

商船三井の今期、純利益を500億円上方修正 市場予

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高の流れを好感 徐々に模

ワールド

トランプ氏「BRICS通貨つくるな」、対応次第で1

ワールド

米首都の空中衝突、旅客機のブラックボックス回収 6
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中