コロナ落第生の日本、デジタル行政改革は「中国化」へ向かう
BIG BROTHER VS COVID
抑止的手段をどう組み込むか
一方で、権力の暴走にもつながりかねないとの危惧もある。この点でも、中国は「先進国」だ。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは2019年に「新疆で稼働する大規模な監視システム」と題した報告書を発表した。
海外在住の親族はいないか、ファイル交換ソフトを使用していないか、出国歴はあるかといった複数のデータを統合することで、「危険思想予備軍」を選び出し、予防的に拘束していると指摘した。既に100万人を超えるウイグル人住民が収容施設に拘束されるなど、デジタル技術が人権侵害のツールとして活用されている。
データの統合と活用にメリットがあるとしても、権力の暴走というデメリットをいかに防ぐのかが問われている。
「データの統合を認めつつも、問題がある手法を取っていないかを事後的にチェックしていく制度をセットにする必要がある」と、大屋教授は指摘する。
データの統合ができないような仕組みづくりによって、悪用できないようにするのがこれまでの日本だった(善用もできなかったが)。今後は監視の目を光らせながらも運用を認めていく形へと、政府と社会の関係性を変えなければならないと説く。
政府に権力を与えた場合でも、過剰な人権の制限や国家の暴走を許さないよう、事後的にコントロールできるか。この点について日本人の多くは自信を持っていないようだ。
昨年4月、ギャラップ・インターナショナル・アソシエーションが世界18カ国を対象に実施した国際世論調査がある。
「ウイルスの拡散防止に役立つならば、自分の人権をある程度犠牲にしてもかまわない」という設問に、「そう思う」と回答した比率で、日本は最低の40%。先進民主主義国でもアメリカは68%、ドイツは89%と大きく懸け離れている。
「個人情報が取られるのは『なんとなく』怖いという不安が忌避感につながっている」
筆者と共著で『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、2019年)を執筆した神戸大学の梶谷懐教授は、茫漠とした不安では監視社会化の歯止めとしては脆弱だと危惧する。
そもそも、先進国で監視社会化抑止のよりどころとなっていた人権やプライバシーといった理念は、生存が保障された状況でより良き社会を目指すための主張であり、コロナのような命そのものが脅かされる状況では分が悪い。
梶谷教授は「中国の成功を見れば、日本を含む西側諸国の市民が『民主的』に監視社会化を望むようになるまで、あと一歩だろう」と指摘。データの収集と統合は不可避の趨勢だとしても、同時に、市民の積極的な関与などの抑止的手段を組み込む必要があると警告する。
日本のデジタル行政改革は雪崩を打ったかのように進んでいる。そのなかで、中国型の監視社会とは異なる道を歩むために何をなすべきかが問われている。