コロナ落第生の日本、デジタル行政改革は「中国化」へ向かう
BIG BROTHER VS COVID
中国政府は「データを走らせよ、市民の足を引っ張るな」をスローガンに、行政デジタル化は国民の利益に資するものとして強烈に推進している。
民間での活用も進む。大手IT企業アリババグループが開発したAIスコア「芝麻信用」は、モバイル決済、ネットショッピングやウェブサービスの利用履歴と犯罪歴などの行政データを組み合わせることで、個人の信用を点数化する。
伝統的な金融サービスでは、屋台の店主のような零細事業者が融資を受けることは難しかったが、屋台でもちゃんと客が付いているという支払いデータがあり、かつ犯罪歴がないなどのデータと照合して信用を証明できれば、融資が受けられるようになる――。筆者の取材にアリババの担当者が答えた言葉だ。
大企業の社員や不動産資産の保有者しか使えなかった金融サービスを、より多くの人が享受できるようにした「金融包摂」の成功例とされる。
データ活用はコロナ対策にとどまらず、大きな価値をもたらす。となれば、その基盤となる国民IDの導入にこれまで後ろ向きだった先進国で変化が生まれるのではないか。
「日本も基本的には中国と同じ方向に向かっている」
情報化社会や監視社会を研究する慶應義塾大学の大屋雄裕教授(法哲学)は言う。日本の未来戦略である「ソサエティー5.0」の構想を見ると、中国との共通点は多い。
「今までの情報社会では、人間が情報を解析することで価値が生まれてきました。ソサエティー5.0では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされることで、これまでには出来なかった新たな価値が産業や社会にもたらされることになります」(内閣府ホームページ)
国民IDとなるマイナンバーカードはソサエティー5.0実現の基盤と位置付けられ、政府は普及活動に力を入れている。また、日本でも既に先駆的なデータ活用の取り組みは存在している。
例えば大阪府箕面市では、これまで学校や各行政部局がばらばらに持っていたデータを集約、分析し、家庭の問題や子供の虐待を発見する「子ども成長見守りシステム」を開発した。身長や体重など発育の遅れ、成績の急落といったデータから、問題の予兆をいち早くキャッチすることができる。
「現在は自治体単位の取り組みだけに、越境通学している子供のデータは追えない。行政コストの削減に加え、新たな技術によるデータ活用のためにも、データの統合と活用は不可欠だ」(大屋教授)