マスク不要のCDC勧告、米でも異論噴出 ワクチン未接種でもマスク不要との誤解も
「すべての人のマスク義務を廃止するかのように思われていますが、そうではありません」米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長 Greg Nash/REUTERS
<ワクチン接種済みならマスク不要としたCDC勧告に、アメリカ国内で異論が相次いでいる>
米CDCは5月13日、ワクチンの完全な接種が完了した人々は公共の場でマスクを外しても問題ないとする勧告を示した。ソーシャルディスタンスの確保も不要としている。医療現場など特殊な状況を除き、広く一般社会に適用される見通しだ。
アメリカでの着用義務は現在、各州が判断している。感染拡大が深刻なニューヨーク州やカリフォルニア州など複数の州は、マスク着用をこれまで義務化してきた。CDCの方針を受けて両州は、早ければ来月から接種完了者の着用義務を解除する意向を示した。
テキサス州のアボット知事は、さらに思い切った緩和策を打ち出している。今後同州内の政府機関が市民に対して着用義務を課すことは、従来の方針から一転し、違法行為とみなされる。
感染リスク無視の一律撤廃が物議を醸す
CDCの勧告は、アメリカの人々を息苦しいマスクから開放するものだ。待望の新方針として一様に歓迎されるかと思いきや、意外にもこの方針に対し、常軌を逸しているとの批判が上がっている。
米公共放送局のNPRは、「歴史上前例がない状況において、CDCの動きはギャンブルだ」「だが、確実な賭けからは程遠い」と述べ、指針に批判的な立場を示した。
政治ニュースメディアの米ポリティコ誌も「公衆衛生の入門レベルのミス」だと述べ、新方針を厳しく批判している。同誌がとくに憂慮するシナリオは、職場での感染拡大だ。
CDC方針を受けた米アマゾンはすでに、ワクチン接種済みの倉庫労働者に対するマスク義務を撤廃した。大手スーパーチェーンのクローガー社も接種済みの来店客のマスクを免除するなど、マスク義務解除へのうねりが広がる。
しかし、現在アメリカでワクチン接種を完全に済ませた人の割合は、3人に1人をやや上回る程度だ。ワクチンの有効率が100%ではない状態で、周囲の人の3分の2がワクチン未接種の空間を、マスクなしで歩くことになる。こうした状況はすでに起きており、マスク未着用の来店客に恐怖を覚える店舗従業員も多いという。
労働者の権利団体である米国労働法プロジェクトは、精肉やスーパー、倉庫などの密な環境で「膨大な数の従業員が感染し、アウトブレイクが起き続けてきた」と指摘する。同団体はCDCと労働安全衛生局に対し、職場では引き続きマスクが必要であることを「直ちに」周知するよう求めている。職場が感染のホットスポットとなれば、従業員を通じて家庭へも感染が波及しかねない。