最新記事

ワクチン

ファイザー製2回目接種、遅らせる方が有利か 抗体3倍に 英研究

2021年5月18日(火)19時10分
青葉やまと

2回目の接種を遅らせるイギリスの政策には結果として妥当性があったと評価...... REUTERS/Lee Smith/

<2回目の接種を12週間後まで遅らせると、抗体の誘導効果が高まるという>

ワクチン承認時点での臨床データは3週間間隔での接種を前提としていたが、実はこの間隔を延ばした方が効果が高まるかもしれない。こんなデータがバーミンガム大学とイギリス公衆衛生庁との共同研究によって示された。

実験では80歳以上の高齢者175名を対象とし、参加者のうち99名は現状の規定通り3週間後に2回目の接種を行った。残りのうち74名は12週間後に接種し、実験途中で感染歴が判明した被験者は除外された。

2回の接種完了後に血液サンプルを分析したところ、いずれの接種者もウイルスの表面に存在しヒトの細胞に侵入する足掛かりとなる「スパイクタンパク質」への抗体が確認された。抗体の平均濃度を比較したところ、12週後に接種したグループは3週間後に接種したグループよりも3.5倍高いという結果が得られた。

ファイザー製ワクチンについてこの傾向を確認した研究は今回が初となる。なお、本論文はプレプリントであり、現在正式な査読を待っている状態だ。

類似の研究としてはオックスフォード大学が2月、アストラゼネカ製ワクチンについて同様の傾向を確認している。当該の既存研究は著名医学誌『ランセット』に掲載されている。

同研究によると、2回目接種から14日後時点での発症を防ぐ有効率は、6週間未満の接種間隔の場合で55.1%だったのに対し、12週以上間隔を空けた場合は81.3%と高かった。こちらの研究は高齢者に限らず、18歳から65歳までを対象としている。

イギリス戦略の妥当性が裏付けられる

2回目およびそれ以降の接種は、抗体の誘導効果を高めるための「ブースターショット」と呼ばれる。イギリス政府は昨年末、やむを得ずブースターショットの実施を遅らせるという判断を行なっている。これは本研究の内容と関連したものではなく、ワクチンの供給量が限られるなかで接種人口を拡大するためのいわば苦渋の選択だった。一人あたりの免疫効果を多少犠牲にしてでも、接種人口の拡大を優先しようという戦略だ。

イギリス国内ではこの動きを支持する意見が出る一方、臨床試験の実施前提とかい離が出ることから、反対論も根強かった。規制当局による当初の承認は、3〜4週間の投与間隔に基づいて得られたデータを基にしている。

しかし、ブースターショットを遅らせることでより高い免疫効果が得られるのであれば、社会単位だけでなく個人単位での免疫という視点でも、むしろ長期的にプラスの効果を生んでいたことになる。英テレグラフ紙は「政府の戦略の明らかな援護」になる結果だと述べており、2回目の接種を遅らせる政策には結果として妥当性があったと評価している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中