脱炭素「優等生」とされるイギリスの環境政策が、実は全く持続可能でない理由
NO CLIMATE LEADERSHIP
しかもジョンソン政権は昨年3月、気候変動対策に逆行する炭素集約型のインフラ事業に巨額の税金を投入することも発表した。これには380億ドル近くに上る道路網の拡張・修繕計画も含まれる。国際環境NGO「フレンズ・オブ・ジ・アース」のイギリス支部は、これを交通量が膨らみ炭素排出量も増大させる「気候破壊的」な事業だと批判する。
保守党の化石燃料産業の将来像に対する姿勢も懸念されている。ジョンソン政権は、北海油田を経済の成長エンジンにするというイギリスの長年にわたる政策を公式に取りやめたことはない。
これはすなわち、自国のエネルギー企業にノルウェーなど近隣の産油国よりも低い税率を課してきたイギリスが、この先20~30年も北海での石油・ガス生産を支援し続ける可能性があるということだ。当然、その過程で大量のCO2が排出されることになる。
そうなってしまう公算は高い。昨年9月、イギリスの石油・ガス当局は新たに北海開発の承認を65社に与えた。ジョンソン政権は今年3月、将来のこうした承認には環境適合条件を課すと発表したが、その内実は曖昧なものだ。石油・ガス産業が排出削減目標を達成できるように、官民で220億ドルもの投資を行って支援するというのだ。
どっちつかずな保守党の姿勢
保守党の閣僚たちはこの金額について、化石燃料産業の脱炭素化を加速させる「画期的な取り組み」だと主張している。クワシ・クワーテング企業・エネルギー・産業戦略担当相はこの投資を、炭素経済からの「不可逆的な移行」と位置付け、「世界に向けてイギリスがクリーンエネルギーの国になるという明確なメッセージを発信した」と述べた。
しかし環境保護団体は、そうはみていない。NGOのオイル・チェンジ・インターナショナルのロマン・ユーアラレンは、フランスやデンマーク、ニュージーランドといった環境先進国に倣い、石油やガス採掘を将来的に完全に禁止すべきだと主張する。
保守党のこうしたどっちつかずの姿勢は、ジョンソン政権が19年7月に発足する前から始まっている。10~16年には一連の緊縮財政の一環として、同党のキャメロン首相が太陽光発電への助成金を大幅に削減し、設立されたばかりのクリーンエネルギーに投資するグリーンバンクをオーストラリアの投資銀行へ売却した。ジョンソンはこの流れを受け継いだ。今年3月には、各家庭に低炭素の暖房システム導入を促す20億ドルの補助金制度を廃止している。
気候変動対策の活動家たちに言わせれば、ジョンソンのこうした曖昧な環境政策と、温暖化をもたらしている産業に援助を続けている姿勢は、保守党の矛盾した気候変動対策の象徴だ。