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脱炭素「優等生」とされるイギリスの環境政策が、実は全く持続可能でない理由

NO CLIMATE LEADERSHIP

2021年4月30日(金)18時07分
ジェイミー・マクスウェル

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英政権は脱・化石燃料に動けるか(英南部の風力発電所) MATTHEW CHILDSーREUTERS

しかし、石炭からの段階的撤退は1度しか使えない手段だ。イギリスは今後、CO2排出量の削減ペースを上げる新しい方法を見つける必要がある。例えば、各世帯の暖房や企業の電力源を再生可能エネルギーに切り替えるなどといったことだ。

排出ゼロには「到底不十分」な取り組み

石炭産業の衰退は、イギリスが脱・化石燃料のための「手の届きやすい手段の大半を既に使い果たした」ことを意味すると、英環境研究所のマグナス・デービッドソン研究員は言う。今後は交通網や住宅インフラの環境対策などの難題に着手しなければならず、「イギリスにとって脱炭素化がますます困難になる」と、デービッドソンは指摘する。

イギリスの気候変動の取り組みを追跡している独立行政機関、気候変動委員会(CCC)の所見が、デービッドソンの分析を裏付けている。

CCCの昨年12月の発表によれば、イギリスは08年以降、気候変動法の定める目標に沿ったCO2排出量上限規制に成功してきた。しかし今のままでは、20年代後半から30年代前半に向けた次の目標値を達成できないという。

ジョンソン政権は温暖化対策の核として、洋上風力発電や新たな水素発電技術、原子力の分野への約167億ドル相当の投資を掲げている。だが計画どおり50年までにCO2の実質排出量ゼロを目指すなら、この取り組みでは「到底不十分」だと、CCCは指摘する。

さらにジョンソンは、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う経済危機への対応として、包括的な「グリーン・リカバリー」の促進を怠っているとも批判されている。

ジョンソンは昨年6月、コロナ禍で打撃を受けた経済を立て直すために、大恐慌の直後に当時のフランクリン・ルーズベルト米大統領が打ち出したニューディール政策並みに財政支出を拡大する方針を表明。新型コロナが収束したら、イギリスは単に「経済のより良い再建」を行うだけではなく、「よりグリーンな再建」も行うと述べていた。

だが、政府がそう主張するわりには支出額が伴っていないのが現状だ。ジョンソン版ニューディール政策は対GDP比で0.2%規模の予算額でしかない。一方、ジョー・バイデン米大統領が打ち出している1兆9000億ドルの経済対策は、アメリカのGDPの9%に相当する。

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