最新記事

一帯一路

中国は、アメリカが去った中東への「積極進出」で何を狙っているのか?

NEW STAR IN THE MIDDLE EAST

2021年4月27日(火)18時21分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
2018年にUAEを訪問した中国の習近平国家主席

2018年にUAEを訪問した習国家主席 WAM/Handout via REUTERS

<アメリカの穴を埋めるように中東での存在感を増す中国だが、その最大の目的はあくまで経済的な利益だ>

アメリカ史上、最も長い戦争に終止符が打たれる。4月14日、バイデン米大統領は今年9月11日までにアフガニスタン駐留米軍を完全撤退させると表明した。

これは、より広い意味でのアメリカの「脱中東シフト」を示す出来事だ。ならば、アメリカに取って代わる国は現れるのか。

中国には、その意欲があるようだ。中国の王毅(ワン・イー)外相は3月27日、訪問先のイランの首都テヘランで、今後25年にわたって経済・政治・安全保障分野での両国間の協力を強化する「包括的戦略的パートナーシップ(CSP)」協定に署名した。アメリカにとっては気になる動きだ。

CSPは中国にとって外交政策の標準ツールで、イラクやサウジアラビアなどとも同様の関係を結ぶ。今回の協定については、中国が4000億ドル相当の対イラン投資を行うと報じられるなど、規模を過大視する向きがある(両国は具体的な金額を確認していない)。

とはいえ中国が、アメリカの長年の敵国とこの手のパートナーシップを結ぶのは今回が初めてだ。同時に、中国は中東におけるアメリカの最も親密な同盟国であるアラブ首長国連邦(UAE)やエジプト、さらにはイスラエルとも関係を深めている。

今のところ、中国の動機は主に経済面にあると見受けられる。中東諸国との関係強化は、同地域のエネルギー資源へのアクセス獲得に加え、イスラエルのテクノロジー産業との協働を通じて最先端部門での知名度アップも実現する。そのため(自国にとって厄介なことに)中国は近年、イスラエルへの投資を急増させている。

イスラエルは「一帯一路」構想にとって重要な存在でもある。アジアや欧州各地の港に続き、同国の貿易の要衝ハイファ港の運営権は今年から25年間、中国政府系企業が握る。同様に、中国はイランからの原油供給増を見込み、ホルムズ海峡に面する同国の港湾都市バンダルアバスへの海上輸送の直通ルートを確立した。

中国が中東での紛争をあおるのではないかとアメリカが心配する必要は(現時点では)ない。イランとのCSPは軍事同盟ではなく、中国はイランの「天敵」サウジアラビアと軍事演習を実施している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中