「米軍は中国軍より弱い」とアメリカが主張する狙いは?
となればなおさら、日本には以下のようなことが求められていることになる。
(1)ポストINFとして中距離弾道ミサイルを日本に配備すること。
(2)憲法を改正して日本が軍隊を持つこと。
(3)在日米軍の経費を日本が増額すること。
(4)何よりも残り80%の米軍に代わって日本が矢面で戦う覚悟を持つこと。
日本にとっては実に厳しい現実が目の前に横たわっている。
中国が台湾を武力攻撃するのは、どういう場合か?
それでは、中国は本気で台湾を武力攻撃するだろうか?
アメリカが日本に「脅し」をかけている前提が、正しいか否かを先ず考察してみなければならない。詳細なシミュレーションはまた別途行うとして、中国が台湾を武力攻撃する場合をストレートにひとことで言うなら、「台湾政府が独立を宣言しようとした時」である。
台湾政府が独立を宣言しようとする動きに出なければ、中国(大陸、北京政府)は台湾を武力攻撃することはないだろう。
理由はいくつかある。
その一:たとえ上記のような米軍に関する不利があろうとも、中国軍の軍事力はまだ不十分で、米軍に完全に勝利できるという保証がない。負け戦をすれば、一党支配体制は崩壊する。
その二:戦争を起こせば、人心が乱れて社会不安が増す。社会不安が増せば、一党支配体制は揺らぐ。
その三:戦争になれば台湾の無辜の民の命を奪うことになり、国際社会からの厳しい制裁を受ける。その制裁の程度は天安門事件や香港問題あるいはウイグルの人権問題の比ではなく、中国は孤立して中国経済が成立しなくなる。そうすれば一党支配体制が崩壊する。
このように、いくつもの理由があるため、台湾政府が独立を叫ばない限り、中国が積極的に武力攻撃することはない。
ならば、なぜ現在、台湾周辺で中国軍の軍事活動を活発化せているかと言うと、アメリカが台湾を支援して政府高官を台湾に送り込んだりしているからである。活発な軍事活動は2020年8月のアザール厚生長官の台湾訪問から始まった。だからアメリカと、それを喜んで受け入れている蔡英文総統に威嚇しているに過ぎない。
ではトランプ政権はなぜアザールを訪台させたかと言うと、そこには米中のハイテク競争がある。これに関しては、追ってまた機会を見て分析する。
(なお、中国が軍事活動を活発化させたもう一つの理由に、香港デモに影響を受けた台湾独立派の動きがある。これは習近平の自業自得で、書きたいことが多いが、文字数の関係上、別途考察することとする。)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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