難民が受け入れ国の「市民」になるには何が必要か...戦禍を逃れた人々の切なる願い
REFUGEES NO LONGER
活動家は政府が抜け道を見つけて難民を送り返すのではないかと危ぶみ、統合への次のステップとして市民権取得の推進を訴える。
難民が難民でなくなるのは受け入れ国の市民権を得たときだと言うのは、欧州難民協議会(ECRE)の上級コミュニケーションコーディネーター、ビラス・セーレ。欧州のほとんどの国では一定の条件付きで市民権取得への道が開かれているが、申請が簡単に通るとは限らない。
「市民権の取得は受け入れ国で完全な権利を手にする唯一の方法であり、難民を社会に溶け込ませるための重要なステップだ」と、セーレは言う。「(一時的な庇護で)統合は進まない。難民は市民として能動的に社会に関わることができず、宙ぶらりんな状態に留め置かれる」
ECREによれば19年にドイツは4000人近いシリア人に市民権を与えたが、その中に難民として入国した人は比較的少ない。
ドイツの難民支援団体プロ・アジールで法律顧問を務めるビープク・ユーディトは、今年から来年にかけてシリア難民の市民権申請が急増するとみている。ドイツに来た難民の大半が、申請条件である6〜8年の居住期間を間もなく終えるからだ。また彼らはドイツ語を習得し、法律にも詳しくなっている。
「難民」は法的意義を持つ言葉だが、時として排他的なニュアンスを帯びる。「人をいつまでも法的地位で定義すべきではない」と、ユーディトは言う。「長くその国に住み、社会の一員になっているならなおさらだ。バックグラウンドを理由に、ずっと特別視するのはおかしい」
世間の風向きも変わりつつあり、昨年10月の支持政党に関する調査では、有権者の反難民感情に付け込んで躍進した極右政党ドイツのための選択肢(AfD)が牙城の東部で1位から3位に転落した。3月に行われたオランダの下院選挙では中道右派の与党が第1党の座を維持し、極右の自由党は議席を減らした。
選挙の立候補者に脅迫も
シリア難民危機を肥やしに台頭した極右政党だが、勢いを維持するのは難しそうだ。攻勢に転じたリベラル派はシリア難民の市民権申請や選挙への立候補を奨励し、各国で政治勢力になれるよう後押ししている。
市民権申請中のシリア難民タレク・アラオウスが9月のドイツ総選挙に緑の党から立候補すると聞き、前出のオマールは舞い上がった。
「アラオウスはドイツに住むシリア人の誇りだ」と、彼は言う。「シリアで彼のような候補が自由で公正な選挙に臨めるようになれば、それこそ夢のような話だ。しかし、シリアは民主主義国家ではない」
残念ながらアラオウスは人種差別的な嫌がらせや殺害予告に悩まされ、出馬を断念した。だがシリアで民主主義を求めた難民は、いまヨーロッパでその挑戦を続けている。
時間はかかる。それでも彼らは受け入れ国にしっかりと根を下ろし、完全な市民となるその日まで長い道を歩み続けるだろう。
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