ミャンマー市民が頼るのは、迫害してきたはずの少数民族 「内戦勃発」が最後の希望
Bloody but Unavoidable
迫害を受けてきた少数民族に期待が集まる(写真はカチン独立軍) THIERRY FALISEーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES
<国際社会に幻滅した市民らが一縷の望みを託す「少数民族連合軍vs国軍」の構図。当事者たちが語るその可能性>
国軍による弾圧が激しさを増すミャンマー(ビルマ)で抵抗手段を奪われた国民たちは今、少数民族の軍隊と国軍との全面戦争を求め始めている。かつては敵視すらしていた少数民族を救世主扱いするほど期待は高いが、どれくらい現実味がある戦略なのか。ミャンマーのエリート軍家系出身で民主活動家のモンザルニ、少数民族であるカチン民族機構(KNO)ロンドン本部のクントイラヤン事務局長、在日ビルマ・ロヒンギャ協会のゾーミントゥット副代表の3人に、本誌・前川祐補が聞いた。
――少数民族軍連合vs国軍という対立構図が浮上した経緯を教えてほしい。
モンザルニ デモを行っていた市民らは当初、諸外国からの外圧を期待していた。軍事的圧力でなくとも、国軍が弾圧から手を引くような効果的な懲罰を求めていた。だが(アメリカなどが部分的に制裁を発動したものの)ミャンマー国民を満足させるような動きは起きていない。国軍への制裁を決議できなかった国連安全保障理事会も含めて国民は外圧に幻滅し、よりどころを少数民族の軍隊にシフトさせた。国民の中には少数民族軍を救世主と呼ぶ者もいる。
クントイラヤン われわれカチン族は都市部でのデモ弾圧とは別に国軍から攻撃を受け、彼らを返り討ちにした「実績」もあった。
――少数民族軍の連合はどのように形成されるのか。
モンザルニ 1つは、「統一政府」の樹立を目指す民主派議員らで構成する連邦議会代表委員会(CRPH)が、少数民族の軍隊を「連邦軍」として取りまとめる方法だ。だが、少数民族側はCRPHの中心にアウンサンスーチーや彼女が率いる国民民主連盟(NLD)を据えることに対して非常に否定的だ。彼らはクーデターを防ぐこともできず、その後の対応でも失敗したからだ。CRPHは国民の支持を得ているが、将来的な政府組織においてスーチーとNLDの影響力をどれだけ排除できるかがカギになる。
クントイラヤン 少数民族の間では、CRPH憲章は現在の憲法から国軍の議会枠(国会議員定数の4分の1は軍人)を定めた条項を取り除いただけ(つまりNLDの影響力が色濃く残る)との批判が多い。私たちはこれまで少数民族に差別的だった「ビルマ人愛国主義者」たちへの警戒を解いておらず、NLDに対する不信感も根強い。