最新記事

アジア

「日本のお金で人殺しをさせないで!」ミャンマー国軍支援があぶり出した「平和国家」の血の匂い

2021年4月9日(金)17時52分
永井浩(日刊ベリタ)
東京で国軍のクーデターに抗議する在日ミャンマー人

国軍のクーデターに抗議する在日ミャンマー人(2月14日、東京)Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<日本が本当に「平和国家」なら、今こそその精神に忠実であってほしいとミャンマー人は訴える>

「日本のお金で人殺しをさせないで!」──国軍クーデターから2ヶ月後の4月1日、外務省前で行われた「ミャンマーの平和と民主主義を求める集会」で、在日ミャンマー人が手にしていたプラカードである。この呼びかけは私に、日頃気づかなかった日本の平和にひそむ血の匂いをかぎ取らせてくれた。それとともに、「国際社会において名誉ある地位を占めたい」と記した日本国憲法前文の「平和」の実現に何が必要なのかを考えさせられた。

「人間として恥ずかしい行為」

「日本のお金による人殺し」とは、日本政府が長年にわたり民主化運動を弾圧する軍政の側に立ち、軍政を民主化へ前進させるためという名目で経済援助をつづけながら、日本の官民連合のODA(政府開発援助)ビジネスが国軍のふところ潤してきたという実態が、クーデター後に明らかになってきたことを指している。

たしかに日本は、クーデターに反対し民主主義を守れと立ち上がった広範なミャンマー国民に血なまぐさい武力弾圧の手をゆるめない国軍に、直接手を貸しているわけではない。しかし、国内外のミャンマー人から見ると、日本の公的資金が国軍に流れていることははっきりしている。日本政府は間接的に軍政の残虐行為に加担している、と映る。だから、日本が本当に「平和国家」であるなら、その精神に忠実であってほしい、と彼、彼女たちは訴えているのである。

小さなキャンドルライトに照らされたミャンマー人の無言のプラカードには、「国軍に流れる公的資金を止めて」とも書かれている。集会に参加した日本人のプラカードにもおなじような文字が並んでいる。「日本はミャンマー国軍に加担するな!」「国軍の資金源を絶ってください」「日本政府は国軍に強く抗議せよ、人殺しはだめだ」「私たちの税金でミャンマーの人たちを殺さないで」。在日ビルマ市民労働組合会長のミンスエさんは「ODAを考え直すべきだ。何人(なにじん)であろうと、殺されているのに黙っているのは本当に恥ずかしいこと。命が奪われているのに何も行動しない日本政府は、人間として恥ずかしい」と発言した。

集会に参加したミャンマー人と日本人の代表が外務省で要望書を提出。「ODAにくわえ、日本政府が出資する公的機関をつうじた経済支援もふくめて、国軍に利益がわたることがないよう、政府としてきちんと対応してほしい。それを調べて公表してほしい。国軍と関係ある企業はやめさせてほしい」「犠牲者が増えないようはっきりした態度をとるべきだ。それをやらない理由は何か。日本にはそれによる利益があるのか、という疑いが出てきた。きちんと説明してほしい」と訴えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 5
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 8
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 9
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 10
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中