最新記事

ミャンマー

繰り返されるミャンマーの悲劇 繰り返される「民主国家」日本政府の喜劇

2021年4月5日(月)11時30分
永井浩(日刊ベリタ)
ミャンマー南東部ダウェイの抗議デモ

ミャンマー南東部のダウェイで抗議デモを行う地元大学の学生と大学職員(4月3日) Dawei Watch/REUTERS

<ミャンマー軍に対する厳しい制裁に踏み切れない日本政府は軍政の「共犯者」だ>

ミャンマーの国軍クーデターから2ヶ月。この政変が起きた2月1日の本サイトで、私は「日本政府は今度こそ民主化支援を惜しむな」と書いた。政府はこれまで、同国の民主化を支援するという空念仏を唱えるだけで、事実上軍政の延命に手を貸してきた事実を知っていたからである。だが、私の期待は裏切られたようだ。民主化運動への国軍の弾圧は残虐化するいっぽうなのに、「民主国家」日本の政権担当者は国軍「非難」の談話などを出すだけで、欧米諸国のような制裁には踏み切れない。なぜなのかを理解するために、私は古い取材メモなどをあらためて引っ張り出してみようと思った。【永井浩】

スーチー氏「解放」の実態

私がミャンマーの民主化について取材をはじめたのは、民主化運動指導者のアウンサンスーチー氏が6年間におよぶ自宅軟禁から解放された1995年7月から間もなくしてからだった。彼女の解放を喜ぶとともに、依然として軍政がつづく同国の現状と今後の見通しについていろいろ聞きたいジャーナリストが、世界各地から最大都市ヤンゴンのスーチー邸に殺到した。毎日新聞記者の私もその一人だった。

日本政府は彼女の解放を民主化への前進と評価し、欧米諸国にさきがけて、軟禁下で凍結されていた経済援助の再開を表明した。では「解放」の実態とはどのようなものだったのか。多くのジャーナリストの取材申し込みのウエイティングリストの後ろのほうに載っていた私が、やっとスーチー邸の門をくぐったのは9月2日だった。

まだ雨季なので、足元はぬかるんでいた。訪問客は、邸内に設けられた受付で姓名、所属団体、外国人ならパスポート番号を書くようにもとめられる。これは、軍事政権「国家法秩序回復評議会」(SLORC)がスーチー氏の「警護」のために取っている措置とされるが、彼女の側からの自発的要請にもとづくものではない。外国人には、公安当局がカメラのフラッシュを浴びせる。

解放直後は、祝福のお土産をかかえて国内各地から駆けつけた、彼女の率いる「国民民主連盟」(NLD)の支持者たちがひきもきらなかった邸内は、だいぶ落ち着きを取りもどした。軟禁中は手入れができず、「まるでジャングルみたいだった」と彼女が述懐する庭もこざっぱりした。

しかし、日常の活動はいまだに大きな制約を受けている。電話は通話可能になったものの、側近によれば「盗聴されている疑いが強い」。コピー機とファックスの設置には政府の許可が必要だが、申請してもいまだに許可が下りていない。共産主義政権が倒れるまでのソ連・東欧諸国のような言論統制だ。私信はまず届かないとみた方が確実だ。私もインタビュー掲載紙と書留を日本から送ったが、二通とも届いていないことがその後わかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中