最新記事

後遺症

「ウイルスは検出されず」でも重い症状が何カ月も...偏見とも闘う長期患者の苦悩

TALE OF A COVID LONG-HAULER

2021年4月3日(土)17時41分
マーゴー・ウィットフリート(ラマー大学・社会疫学助教)
神経症状の検査を受ける筆者のマーゴー・ウィットフリート

神経症状の検査を受ける筆者 COURTESY OF MARGOT GAGE WITVLIET

<検査を受けてもただの心理的な症状と周囲に相手にされず、二重に苦しむ「ロングホーラー」の闘いの記録>

想像してみてほしい。若くて健康、たばこも吸わない、基礎疾患もない。新型コロナウイルスなど怖くないはずなのに、ある朝突然何者かに首を絞められているような息苦しさにハッと目が覚める──2020年3月、私の身に起きたことだ。

ヨーロッパから戻ったばかりだった。帰国後10日ほどしてインフルエンザのような症状が出た。たった一晩で急激に悪化し、呼吸困難に。走って山登りしたような苦しさだった。

病院に行き、当時まだテキサス州では受ける人も少なかった検査を受けた。結果は陰性。ビッグデータを扱う社会疫学者である私は、偽陰性だと確信した。

それから4カ月余りたった今も、症状は続いている(編集部注:この体験記が執筆されたのは20年8月)。安静にしていても心拍数が上がるし、日の当たる場所にしばらくいると、ぐったり疲れる。胃腸の調子が悪く、耳鳴りがし、胸痛がある。

新型コロナに感染し、当初の症状が治ってウイルスが検出されなくなっても、長期間後遺症に悩まされる人が増えている。「ロングホーラー」と呼ばれる患者たちで、私もその1人だ。

後遺症の典型的な症状の1つは疲労感だが、ほかにもさまざまな症状が表れ、「ブレインフォグ(脳の霧)」と呼ばれる神経系の症状に悩まされる人もいる。こうした症状を抱える人が増えれば、彼らが何らかの形で仕事を続けられるよう雇用側にも配慮が求められる。

新型コロナの後遺症を「障害」と見なすべきかどうかは現時点では分からない。後遺症がどのくらい続くかも不明だ。

当初、私がかかった医師は診断がつきかねているようだった。検査では陰性だったし、熱もなかったので、新型コロナウイルス感染症の初期の診断基準には当てはまらない。一応、呼吸器疾患と診断され、抗生物質と抗炎症剤を処方された。

エール大学の研究チームの20年5月の発表によると、アメリカでは新型コロナの死者数は公表よりはるかに多い可能性がある。私が自宅で死んでいたら、新型コロナによる死者にはカウントされなかった。

サポートグループの存在

3月末までには症状はだいぶ落ち着いたが、その後また急変。救急治療室に運ばれ、ようやく新型コロナと診断された。「あなたは運がいい」と、医師は言った。「検査では臓器の長期的なダメージはなかった」

その後何週間もカーテンを閉め切ってベッドに寝たきりで過ごした。光や音の刺激が耐え難かった。

なぜつらい症状が続くのか。答えを求めて必死でネットを検索するうちに、新型コロナの後遺症に苦しむロングホーラーたちのサポートグループの存在を知った。

そうしたグループのサイトをいくつかのぞいて分かった。インフルエンザよりもひどい症状があるのに、入院を断られる人が大勢いるのだ。

また、新型コロナは神経毒性を持つ疑いがあり、血液脳関門を突破して脳内に入り込む数少ない病原体と考えられることも知った。私のように神経症状に苦しむ患者が多くいるのはそのためかもしれない。

伝染性単核症や慢性疲労症候群と似た症状を訴えるロングホーラーも多い。症状はさまざまでも、多くの後遺症患者に共通する悩みは、医師に訴えても「気の持ちよう」で片付けられ、二重に苦痛を受けることだ。

新型コロナに感染し、自分の症状を公表した最初の疫学者はポール・ガーナーだ。彼は医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルのオンライン版のブログで7週間にわたる闘病生活についてつづった。

仕事が続けられるよう理解を

私は7月に後遺症についてABCニュースのインタビューを受けた。この月、インディアナ大学の研究チームがオンラインで行った患者の聞き取り調査を基に、新型コロナの後遺症とみられる100余りの症状を発表。米疾病対策センター(CDC)は7月末、基礎疾患のない若年層でも後遺症が出ることがあると警告を発した。

新型コロナに感染して回復した人でも、抗体を持たない人は多い。抗体検査は精度が低いという事情もあるが、スウェーデンの研究によると、体が新型コロナと戦うには抗体よりもT細胞の働きが重要とも考えられる。抗体の有無にかかわらず、ヘルパーT細胞とキラーT細胞の働きで回復するケースがある、というのだ。

米ラホヤ免疫学研究所のチームは、新型コロナに感染したことがないのに新型コロナを攻撃できるT細胞を持つ人がいることを明らかにした。T細胞の働きについてはよく分かっていないが、こうしたデータには希望も持てる。

多くのロングホーラーと同様、私も普通の生活に戻りたいと思っている。今もひどいだるさや「脳の霧」、頭痛などの症状があり、1日のうちの多くの時間は体を休ませている。

ロングホーラーが感染前と同じペースで仕事をこなすのは難しい。かといって障害者枠に入るかどうかは微妙だ。「若年層に見られる(ウイルス消滅後も)長く続く症状が慢性疾患かどうかは数カ月、1年、あるいはそれ以上待たないと分からない」と、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は述べている。

経済的な安定は健康の維持に欠かせない。ロングホーラーが仕事を続けられるよう、雇用者はぜひ体制を整えてほしい。長期にわたって体調が優れないストレスに加え、失業の不安が重なれば、精神疾患を引き起こす恐れもある。新型コロナのリスクを解明し、より有効な予防や治療方法を確立するためにも長期に及ぶ後遺症の研究は欠かせない。

もしもあなたが周囲に自分の症状を理解してもらえず、1人で不安を抱え込んでいるロングホーラーなら、オンラインのサポートグループに連絡してほしい。

The Conversation

Margot Gage Witvliet, Assistant Professor of Social Epidemiology, Lamar University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震、死者1700人・不明300人 イン

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 9
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中