最新記事

新型コロナウイルス

意識障害、感情の希薄化、精神疾患...コロナが「脳」にもたらす後遺症の深刻度

HOW COVID ATTACKS THE BRAIN

2021年4月2日(金)11時29分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)
脳イラスト

ILLUSTRATION BY ALEX FINE

<呼吸器系感染症とばかり思われていたが、脳神経に与える影響が注目され始めた>

神経学者のガブリエル・デエラウスキンが、新型コロナウイルスが脳に与える長期的な影響に懸念を抱き始めたのは、昨年1月のこと。武漢から届いた初期の報告に、回復者が嗅覚と味覚を失っていると書いてあったのだ。

人間の五感のうち2つが突然失われるなんて、神経学者として見過ごすわけにはいかないと、デエラウスキンは思った。その懸念は、すぐに警戒へと変わった。

きっかけは、テキサス大学保健科学センターでデエラウスキンに付いている研修医の1人に、新型コロナ感染が確認されたことだ。研修医は30代の女性で子供がいるが、1カ月にわたり家族と離れてホテルで隔離生活を送らなくてはならない。

だが本人が最も混乱したのは、幼い子供たちと離れて暮らすことよりも、それに対する自分の感情だった。「子供や仕事のことをもっと心配するべきだと、彼女も頭では分かっていた」と、デエラウスキンは言う。「ところが彼女は感情が麻痺していた。嗅覚と味覚を失った上に、感情も乏しくなっていた。そして、そんな自分にひどく当惑していた。この種の無関心や感情の解離は、扁桃体との関係なしには説明がつかない」

扁桃体とは脳の奥深くにあって、感情をつかさどる神経細胞の集まり。この研修医のように、新型コロナに感染した人が脳機能の障害を示しているという報告は、この1年で増え続けており、デエラウスキンら神経学者は危機感を募らせている。

数十年後に認知症が急増?

肺炎などの急性症状がなくなり、感染に伴う精神的な不調を覚える時期もとっくに過ぎたと思われる「元患者」が、精神疾患を訴えているのだ。なかには震えや極度の倦怠感、異臭の錯覚、めまい、さらにはブレインフォグ(脳の霧)と呼ばれる意識障害を訴える人もいる。

関連する医学論文も増え始めた。武漢の新型コロナ患者200人以上を対象とする調査研究によると、全患者の35%、重症者に限ると45%に神経系合併症が見られた。有力医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに発表されたフランスの研究では、患者の67%に神経系疾患が見られたという。

新型コロナに関してはまだ不透明な部分も多く、確実なことは何も言えない。だが、このウイルスが脳神経にダメージを与えた結果、数十年後には認知症など神経変性疾患の患者が急増するのではないかと、専門家は懸念している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中