最新記事

新型コロナウイルス

意識障害、感情の希薄化、精神疾患...コロナが「脳」にもたらす後遺症の深刻度

HOW COVID ATTACKS THE BRAIN

2021年4月2日(金)11時29分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

210323p18_CTN_02.jpg

ウイルス感染に伴う精神的不調は感情をつかさどる神経細胞の集まりである扁桃体 (赤い点)が原因か SCIENCE PHOTO LIBRARYーSCIEPRO/GETTY IMAGES


元患者の中には、既に慢性疲労症候群(CFS)に該当する症状を示す人が増えている。CFSは極度の疲労や運動能力低下など原因不明の衰弱を特徴とする疾患で、アメリカではコロナ禍が到来する前の時点で約200万人の患者がいた。

新型コロナの後遺症を持つ人がCFS患者と同じ道をたどるとすれば、感染経験者の10~30%がCFSの慢性的な症状に苦しむ恐れがあると、米国立衛生研究所(NIH)傘下の国立神経疾患脳卒中研究所(NINDS)のアビンドラ・ナス臨床部長は指摘する。

新型コロナは当初、肺炎など呼吸器系に障害を引き起こすウイルスだとばかり考えられていた。だが今は、脳を含むさまざまな器官に長期的なダメージを与える可能性があることが分かってきた。メディアも後遺症患者の苦しみや、認知力の低下を積極的に報じ始めた。

「(新型コロナが)神経に影響を与えるという認識が広がってきたのは、ごく最近だ」と、ナスは言う。「私はかなり以前から指摘してきたつもりだが。患者の間からは(ブレインフォグなどの)異常を訴える声が上がっていたが、専門家は何の行動も起こさなかった」

だが、今は違う。最近は大規模な研究プログラムが相次いで発表されている。米議会は昨年、新型コロナ研究のために約15億ドルをNIHに拠出しており、フランシス・コリンズNIH所長らがこの資金を各プログラムに配分していくことになる。

その具体的な配分は明らかになっていないが、NIHの広報担当者は新型コロナの「後遺症の範囲を見極め、その生物学的機序を理解し、防止・治療につなげる努力を拡大する」と語り、ウイルスが脳に与える影響に関する研究も、積極的に支援していく姿勢を示した。

スペイン風邪後の神経疾患

一方で神経学者たちは、新型コロナ感染の早い段階で介入し、ウイルスが脳に与える長期的な影響を最小限に抑える方法を懸命に探っている。後遺症が長期化すると、治療が難しくなるからだ。「それは何としても避けたい」と、ウォルター・コロシェッツNINDS所長は言う。「介入が早いほど効果は大きくなる。2~3年たっても後遺症がある場合、回復の道のりは厳しくなるだろう」感染性のウイルスと慢性的な神経系疾患の関係は、専門家が長年解き明かそうとしてきた謎でもある。

1918年のスペイン風邪の流行後は、世界で推定100万人が嗜眠性脳炎と呼ばれる神経変性疾患を患った。パーキンソン病のように筋肉がこわばる病気で、神経学者で作家でもあるオリバー・サックスが、映画化された小説『レナードの朝』で描いたことでも知られている。しかし、今もその原因は完全には解明されていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中