意識障害、感情の希薄化、精神疾患...コロナが「脳」にもたらす後遺症の深刻度
HOW COVID ATTACKS THE BRAIN
元患者の中には、既に慢性疲労症候群(CFS)に該当する症状を示す人が増えている。CFSは極度の疲労や運動能力低下など原因不明の衰弱を特徴とする疾患で、アメリカではコロナ禍が到来する前の時点で約200万人の患者がいた。
新型コロナの後遺症を持つ人がCFS患者と同じ道をたどるとすれば、感染経験者の10~30%がCFSの慢性的な症状に苦しむ恐れがあると、米国立衛生研究所(NIH)傘下の国立神経疾患脳卒中研究所(NINDS)のアビンドラ・ナス臨床部長は指摘する。
新型コロナは当初、肺炎など呼吸器系に障害を引き起こすウイルスだとばかり考えられていた。だが今は、脳を含むさまざまな器官に長期的なダメージを与える可能性があることが分かってきた。メディアも後遺症患者の苦しみや、認知力の低下を積極的に報じ始めた。
「(新型コロナが)神経に影響を与えるという認識が広がってきたのは、ごく最近だ」と、ナスは言う。「私はかなり以前から指摘してきたつもりだが。患者の間からは(ブレインフォグなどの)異常を訴える声が上がっていたが、専門家は何の行動も起こさなかった」
だが、今は違う。最近は大規模な研究プログラムが相次いで発表されている。米議会は昨年、新型コロナ研究のために約15億ドルをNIHに拠出しており、フランシス・コリンズNIH所長らがこの資金を各プログラムに配分していくことになる。
その具体的な配分は明らかになっていないが、NIHの広報担当者は新型コロナの「後遺症の範囲を見極め、その生物学的機序を理解し、防止・治療につなげる努力を拡大する」と語り、ウイルスが脳に与える影響に関する研究も、積極的に支援していく姿勢を示した。
スペイン風邪後の神経疾患
一方で神経学者たちは、新型コロナ感染の早い段階で介入し、ウイルスが脳に与える長期的な影響を最小限に抑える方法を懸命に探っている。後遺症が長期化すると、治療が難しくなるからだ。「それは何としても避けたい」と、ウォルター・コロシェッツNINDS所長は言う。「介入が早いほど効果は大きくなる。2~3年たっても後遺症がある場合、回復の道のりは厳しくなるだろう」感染性のウイルスと慢性的な神経系疾患の関係は、専門家が長年解き明かそうとしてきた謎でもある。
1918年のスペイン風邪の流行後は、世界で推定100万人が嗜眠性脳炎と呼ばれる神経変性疾患を患った。パーキンソン病のように筋肉がこわばる病気で、神経学者で作家でもあるオリバー・サックスが、映画化された小説『レナードの朝』で描いたことでも知られている。しかし、今もその原因は完全には解明されていない。