最新記事

新型コロナウイルス

意識障害、感情の希薄化、精神疾患...コロナが「脳」にもたらす後遺症の深刻度

HOW COVID ATTACKS THE BRAIN

2021年4月2日(金)11時29分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

210323p18_CTN_03.jpg

スペインの施設でリハビリに励む元患者 PABLO BLAZQUEZ DOMINGUEZ/GETTY IMAGES


エイズウイルスの場合、80年代に抗ウイルス療法が登場するまで、感染者の約25%に認知症が見られた。エイズウイルスは感染から2週間以内に患者の脳に侵入し、神経毒性のあるタンパク質で脳の幅広い領域にダメージを与えるケースが多く見られたと、ラッシュ大学医科大学院のレーナ・アルハーシ教授は語る。

2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)、12年にMERS(中東呼吸器症候群)が流行したときも、一部患者の脳にウイルスが入り込んでいたことが解剖で明らかになった。NINDSのナスは、リベリアのエボラ出血熱感染経験者で今も謎の慢性的な神経症状を患う200人の追跡調査を続けている。

新型コロナが一部の患者の脳に及ぼす影響を探る初期の研究は、思うように進まなかった。死亡した患者の病理解剖には感染の危険が伴うからだ。ある報告によると、パンデミック(世界的大流行)の最初の9カ月間に行われた調査は、149人の脳の解剖を含む24件にとどまった。

それでも、問題解明の手掛かりは見えてきた。マウント・サイナイ医学大学院のクレア・ブライス准教授(病理学)らは、これまでに63人の患者の脳を調べた。研究チームは空気が漏れないように設計された換気システムを持つ特別な部屋で、1度に1人だけの病理医が全身防備の保護スーツとフェイスシールドを装着した状態で作業を行った。

ブライスらは昨年4月、74歳のヒスパニック系男性のケースを詳細に調べた。自宅で何度か転倒した後、意識がもうろうとした状態で緊急治療室に運び込まれた患者だが、容体は安定せず、11日目に死亡した。

ブライスのチームが脳を検査すると、神経細胞の萎縮や変色、酸素欠乏が認められる「死んだ」領域が多数あった。同じ症状は、その後数カ月間に調べた他の62人の脳の約25%にも見られた。さらに11人の患者で、少なくとも数週間前の細胞死の痕跡が見つかった。一部の脳は腫れ上がり、多くの血管が詰まっていた。

「壊死した組織が大きな領域に広がっている例もあったが、多くの場合には非常に小さく、大脳皮質の周辺や脳の奥の表面にまだら状に点在している」と、ブライスは言う。「一部の脳は貧血状態に見えた。酸素不足や出血が見られる脳もあった」

NINDSのナスも、ニューヨーク市検死局から送られてきた16人の遺体の脳組織に同様の損傷を発見。高倍率の顕微鏡で調べた結果をニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに発表した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米陸軍、ドローン100万機購入へ ウクライナ戦闘踏

ビジネス

米消費者の1年先インフレ期待低下、雇用に懸念も=N

ワールド

ロシア、アフリカから1400人超の戦闘員投入 ウク

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、11月速報値は約3年半ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中