最新記事

新型コロナウイルス

意識障害、感情の希薄化、精神疾患...コロナが「脳」にもたらす後遺症の深刻度

HOW COVID ATTACKS THE BRAIN

2021年4月2日(金)11時29分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

ナスが遺体を調べた患者の多くは、医師の診察を受ける前に突然死していた。1人は地下鉄で発見され、もう1人は妹と遊んでいるときに急死した。そのためナスは、症状が軽かったので病気の自覚がなかったのだろうと結論付けた。それにもかかわらず遺体の脳には神経細胞の損傷や炎症、血管の損傷が多数認められた。

その正確な原因については、今も専門家の間で議論が続いている。急性の新型コロナで死亡した患者の脳に見られた損傷は、軽症患者の脳にも同様に存在するのか、その後に発症する未知の後遺症によるものなのかも不明だ。この2つの疑問に対する答えは、将来の治療に大きな影響を与える可能性がある。

嗅覚の喪失と感情の変化

新型コロナによる脳の損傷の原因についてはいくつもの説があるが、今のところ専門家はウイルス感染と自己免疫反応に最も強い関心を寄せている。この2つは互いに排他的なものではなく、症例によってほかに原因がある可能性もある。最も懸念されるのは、慢性的な神経障害を伴う他のウイルス性疾患にも見られる現象――つまり、ウイルスが脳細胞に「定着する」可能性だ。この場合、新型コロナが長期的に見て神経変性疾患の原因となる可能性が高まる。

大規模な集団を対象とした研究では、単純ヘルペスなどの一般的なウイルス感染と、アルツハイマー病や認知症に見られる分子レベルのプロセスとの関連が示されていると、神経学者のデエラウスキンは言う。一部のウイルスは脳に入り込んだ後、一時的に「休眠状態」になり、いずれ再活性化することも分かっている。

デエラウスキンが感染拡大の初期に、強い危機感を抱いたのはそのためだ。自分が遭遇した不可解な臨床症状は脳の構造変化によるものではないか、と危惧したのだ。

嗅覚の喪失は、嗅球という鼻につながる脳の小さな領域が感染した可能性を示唆していた。嗅球は記憶や感情の制御をつかさどる脳の領域付近にあるため、ブレインフォグの症状やパンデミック初期にデエラウスキンの研修医が経験した奇妙な感情の解離は、これで説明できる。

その後、新型コロナの脳への影響を心配すべき別の理由も発見された。新型コロナは当初、主に呼吸器系の疾患と思われていたが、「転移する」能力があるという点で癌と類似点があることが分かったと、医学大学院や病院を傘下に持つマウント・サイナイ医療システム(ニューヨーク)のカルロス・コルドンカルド病理学部長は言う。このウイルスは突起(スパイク)状のタンパク質を使い、多くの種類の宿主細胞に存在するACE2受容体に結合する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中