話題のNFT(非代替性トークン)とは? デジタル絵に75億円:その仕組みと危険性
75億円で落札されたBEEPLEによるデジタルアート 「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」 2021/BEEPLE/REUTERS
<デジタルアートが数億円で落札されるなど、NFT(非代替性トークン)をめぐる驚くべきニュースが続く。実体のないデータの高額取引を可能にするNFTとは。そのメリットとしくみ、そして危険性を読み解く>
3月10日、わずか24ピクセル四方の小さなデジタルアートが日本円にして8億円で落札され、世界を驚かせた。「クリプトパンク」と呼ばれる1万点の作品群のうち1点で、パイプをくゆらせる宇宙人が描かれている。デジタル作品なので実体はない。落札者が8億円をかけて入手したのは、いわば作品の所有権を示す、「NFT」(Non-Fungible Token ノン・ファンジブル・トークン:非代替性トークン)と呼ばれるデジタル証明だ。
翌3月11日には、別のデジタルアートが75億円で落札されている。「エブリデイズ:ザ・ファースト5000デイズ」と題された、あるアーティストの既存作品5000点をコラージュした作品だ。こちらも実体はなく、所有権だけがNFTの形で取引された。
BEEPLEによるデジタルアート 「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」 2021/BEEPLE/REUTERS
熱狂の渦は、芸術分野に留まらない。米NBA選手のデジタル・トレーディング・カードから、クリプトキティと呼ばれる猫育成・交換ゲーム内のバーチャルの猫、そしてツイッター創業者の最初のツイートに至るまで、あらゆるものの所有権がNFTというデジタル資産として競売にかけられ、驚くべき金額で落札されている。
こうした取引は、NFTの登場以前であれば成立させることが難しかった。取引対象はデジタルのアイテムであり、簡単に複製ができてしまうからだ。例えば宇宙人のドット絵アートはネット上に公開されており、誰もが無料でダウンロードできる。8億円で買いたいとは思わないだろう。ところがNFTはこの世に一点しかない「所有権」を売買できるようにすることで、世界中の資産家たちのあいだに入手合戦を巻き起こしたのだ。
NFTが可能にした、デジタル資産の値付け
複製が容易なデジタル空間のアイテムに対し、NFTは「トークンを持っている人だけを本物の所有者とみなす」という概念を持ち込み、唯一無二の付加価値を生んだ。いわばデジタルで保証された所有証明書だ。基本的に誰でも発行することができる。
作品の所有権を売りに出したいと思ったアーティストは、マーケットプレイス(NFTのオンライン取引所)を訪れ、NFTを鋳造(発行)する。鋳造したNFTがオークションで落札されると、NFTは購入者に譲渡され、アーティストは仮想通貨の形で対価を受け取る。通常は著作権は譲渡対象外となるため、アーティストは作品を引き続き展示したり、同じ作品のコピーを販売したりしても問題ない。
したがって購入者としては、引き続き誰もが閲覧可能なアートに大金を払ったことになる。しかし、所有権を示すNFTは世界に一つしか存在せず、そこに価値を見出すことができる。NFTの譲渡履歴はブロックチェーン技術で管理されており、そのしくみ上、再譲渡は可能だが、複製は不可能だ。
こうした性質は、投資対象としての価値をNFTにもたらした。75億円で売れた「エブリデイズ:ザ・ファースト5000デイズ」の落札者は当初謎に包まれていたが、オークションハウスのクリスティーズは、世界最大規模のNFTファンドの共同創設者による落札であったと後に明かした。巨額取引の背後には、このような投機的な動きがくすぶる。
ノン・ファンジブルとは一体?
気になった方のために、ここで「ノン・ファンジブル」が意味するところを確認してみよう。ブロックチェーンが扱うものには、ファンジブルな(つまり代わりが効く)ものと、ノン・ファンジブルな(代わりが効かない)ものとがある。
ファンジブルなものの代表例は仮想通貨だ。例えば現実世界であなたが百円玉を握っていたとして、誰か別の人の百円玉と突然交換しても、別段困ることはないだろう。百円は百円だ。したがって現金は、ファンジブル(代替可能)な性質を持つと言える。ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨も基本的には同じで、ファンジブルだ。