アサド政権が越えてはならない「一線」を越えた日
THE ARROW’S PATH
だが潘は首を縦に振らなかった。国連調査団は今こそ必要とされている。シリア側を説得できれば、調査を行うチャンスはある......。
「歩みを止めるわけにはいかない」と、潘はパワーに言った。
結局、セルストロムは5日間の押し問答の末にシリア側に要求をのませた。アサドは8月26日から5時間、さらにその後には3日間の停戦を続けることに同意した。調査団は証拠集めのため、反政府勢力の支配地域に入ることを許された。ただし、武器も護衛もなしという条件だった。
8月26日午後1時、防弾ガラス付きのSUV(スポーツユーティリティー車)が5台、ダマスカス中心部を出発。ほぼ無人のハイウエーを南西に向かった。
セルストロム率いるチームが最初に向かったのは、反政府勢力が支配するモアダミヤという町だった。砲撃を受けたダマスカス郊外にある。
車列が小さな橋に差し掛かろうとしたとき、先頭を走るSUVの車体に何かがぶつかった。車内にいたメンバーは、小石が猛烈な勢いで金属にぶつかった音のように感じた。
パン! 破裂音がして、次の瞬間、車体にまた何かが当たった。明らかに小石ではない。銃弾だ。
さらに数発の銃弾が先頭のSUVに浴びせられた。2本のタイヤが被弾し、サイドガラスが割れた。フロントガラスにも銃弾が当たり始めた。防弾ガラスがどうにか持ちこたえているが、1発ごとにクモの巣状のヒビが入る。あと1発か2発で完全に割れてしまうに違いない。