カギは「災害医療」 今、日本がコロナ医療体制を変える最後のチャンス
THE GOOD “MAKESHIFTS”
「今は有事の医療体制が必要な時期。政治に期待しているのは、医療資源配分の権限を専門家に与え、バックアップすること。そして激務が続く看護師や介護職員個人への報酬を強化することです。そのためのハードルが法律にあるのならば、法改正も大いにやればいい」と、山本は言う。
重症患者を受け入れる最前線からの声だ。
■結論:信頼が崩壊する前に
「日本は運がいい。このまま感染者が減れば、第1波と同じで、医療体制を何も変えなくていいと思うのでは。社会への脅しみたいな訴えでは限界があるのに......」
今回の取材では、取り上げた以外にも医療関係者の協力を得て、話を聞いてきた。ある医師が吐き出すように言った、こんな一言が現場を象徴している。思い返せば、この1年間、議論の主役は常に「感染者数」にあった。感染者数が増えれば「医療が崩壊する」と社会に訴え、負担や行動変容を「お願い」して、減少させることができた。
しかし、二度あることが三度あるとは限らない。感染者数の抑制と、平常時ではない医療体制整備は対立するものではなく、両立する課題だ。
医療従事者への差別と偏見をもたらすのは、新型コロナへの不安である。医療業界も例外ではなく、不安は根強く残っている。取材中に多く聞いたのは「コロナ患者を受け入れられるだけの力はあるのに、受け入れたくないという病院、医師の気持ちも分かる」という声だった。
医師や看護師が少ない病院や町の開業医は1人でもスタッフに感染者が出たら、診療に影響が出て、即座に経営が逼迫する。
だからこそ、旭中央は現場を丹念に回り地域の病院の不安に耳を傾け、一緒に考えて支える姿勢を打ち出し、そして病院間の連携を強化し、医療体制を構築した。この事例からも分かるように、大事なのは「バックアップの約束」だ。経営的に損をしない報酬と共に、いざという時の不安が解消されれば、「うちも......」と手を挙げる医療機関は増えるのではないか。
現状の議論の問題は医療崩壊の犯人探しに躍起になり、「コロナを受け入れる医療機関」と「受け入れない医療機関」の間に分断を生じさせることにある。より強化が必要なのは、体制構築が進むようなインセンティブを打ち出すことだろう。地域に重症患者を診る病院、軽症と中等症、そして回復期の患者を受け入れる病院、自宅療養患者を観察する医師、これと同時に「コロナ患者を受け入れない」と決めた医療機関があってもいい。
院内感染防止対策などの知見を繰り返し共有しながら、同時に「何を診るか」を決めればいいのだ。別の重大疾患やけがの患者を積極的に受け入れることも立派な「後方支援」であり、医療体制の維持には大いに寄与している。各地で実践が進みつつある病院ごとの役割分担は、新型コロナの特徴に適合した新しい医療体制であり、成功例も出てきている。
危機は感染者数だけにあるのではない。日本は幸運だった。第3波の収束が視野に入り、ここで次の医療体制を議論できる時間を確保できたのだから。このチャンスを逃したとしたら......。帰結は1つしかない。この先に待っているのは政府だけでなく、専門家や医療従事者への信頼崩壊である。
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