カギは「災害医療」 今、日本がコロナ医療体制を変える最後のチャンス
THE GOOD “MAKESHIFTS”
「確かに専門医で固められるなら質は高いので通常時はそれでいい。ですが、今は治療を望む患者が増えている時期です。80点でも救える命の数を増やす医療が必要です。この病気は専門医しか治療ができないものとは思いません。私たちのチームには外から見ればICUから縁遠いと思われている眼科医も精神科医も加わってくれましたが、問題なく機能しています。質の維持を第一目標に据えれば、チーム全体が過労で倒れ、それこそ医療崩壊が進むだけです」
人工呼吸器の装着に慣れているのは場数を踏んでいる専門医であり、専門的なスキルが求められる場面はある。だが、指示があれば多くの医師ができる仕事も現場にはあるのも事実だ。サポートによって、専門医も楽になり、より多くの新型コロナ患者を受け入れる体制が整う。内科ICUから外科ICUへの患者受け入れが比較的スムーズに実現した背景にあるのも、外科から応援医師が入っていたという「経験」だ。
日本の人口1000人当たりの病床数は13床と世界有数である。ICU病床やそれに準じるHCU(高度治療室)も含めたかなり広い換算で10万人当たり13.5床で、アメリカの34.7床に比べれば低いが、イギリス(8.9床)など他の先進国と比べれば極端に少ないわけではない。
だが、日本の場合は特に病床当たりの看護師数が不足している。ICUにしても諸外国では患者1人に対して看護師が1人、1対1看護が基本だが、日本では2対1がスタンダードで、平時から余裕がない医療が続いていた。適切な手だてが打てなければ、第3波で直面したように搬送拒否、あるいはコロナ患者が自宅で亡くなるというケースは防げない。
日本の医療に必要なのは本質的な意味での「トリアージ」だ、と山本は主張する。彼は「トリアージ」という言葉を「命の選別」と言い換えるのは間違いだという。
「疾患にかかわらず、救える命を救うことを最優先に据えることがトリアージの本質です。現状の体制は明らかに機能不全を起こしています。あえて強い言い方をしますが、このくらいの患者数で、救急搬送困難というのはあってはならない。日本の状況で、医療崩壊が起きているのならばそれはシステムがおかしいのです。必要なのは地域の実情に合わせて、医療供給体制整備の指揮命令系統を整えること。これは高度なオペレーションでまさに専門領域です。政府の新型コロナ分科会には感染症疫学や公衆衛生の専門家はいますが、医療供給体制整備を指揮できる専門家は不在のままです。政府や行政は現実離れした病床確保計画を打ち出す前に、指揮命令系統を整える必要があります」
山本が現場から見据えるのは、旭中央の中村と同じく、病院ごとの役割を明確にした地域医療体制の構築だ。重症者は人的資源、設備が整う大学病院や大病院が受け入れる。コロナを診察しないという病院は、別の疾患を受け入れてもらう。中等症や感染性が低くなった回復期の患者を受け入れる病院には、経済的な支援だけでなく、大学病院などの専門家が知見を出し、いざとなれば、人的支援もすると約束をする──。地域全体を一つのネットワークによって「総合病院」として捉える発想である。