五輪延期で購入者が訴訟も 選手村利用のマンション晴海フラッグ
東京五輪・パラリンピックの選手村を改築して販売する集合住宅「晴海フラッグ」は、大会の1年延期で予定通りの引き渡しができず、一部の購入者が民事調停を申し立てる事態に発展した。写真は東京五輪の選手村のための建物。都内で1日撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
東京五輪・パラリンピックの選手村を改築して販売する集合住宅「晴海フラッグ」は、大会の1年延期で予定通りの引き渡しができず、一部の購入者が民事調停を申し立てる事態に発展した。買い手側と売り手側の溝はなお埋まらず、訴訟になる可能性も出てきた。約4カ月後に開会式が迫る五輪と同様、先の見通せない状況が続いている。
1枚紙の通知書
都内に住む女性(45)は昨年6月、1通の封書を受け取った。中には紙1枚。「引き渡し予定日が1年程度変更することになります」と書かれていた。
女性は2019年11月、窓からの景観と広いリビングに魅了され、晴海フラッグの一室を約8500万円で購入した。そこへ届いた延期通知。「契約書を締結する際は結構足を運んだのに、こんな封書が1枚送られてきただけだった」と、女性はロイターの取材に語った。「こういうものなのかと衝撃を受けた」。
東京の豊洲市場にほど近い晴海フラッグは、都が進める再開発事業にもとづく都市開発プロジェクトで、23棟5632戸に約1万2000人が入居予定の大規模マンション群だ。選手村という特別感や東京湾を望む眺めの良さで注目を集めた。
三井不動産レジデンシャルや三菱地所レジデンス、野村不動産などの売り主によると、分譲される総戸数は4145戸。第1期1次と2次では940戸を売り出し、893戸に2220組の申し込みがあった。レインボーブリッジを一望できる部屋の倍率は71倍にまで跳ね上がった。
もともとは20年夏の東京五輪後に内装を改修し、23年3月をめどに購入者に引き渡される予定だった。それが昨年3月に大会の1年延期が決まったことに伴い、物件の引き渡しも1年程度先送りされた。売り主は昨年6月、契約解除を希望する場合は手付金の返金に応じると購入者に通知した。
23年に引っ越すことを前提に準備をしていた購入者は、契約を解除するか、1年余計に待つかの選択を迫られることとなった。都内に住む男性(37歳)は、「非常に一方的に向こう側が解釈、判断して、こちらには選択肢を残させないところに不信感を持った」と話す。
男性は19年7月、3LDKの部屋を購入した。100平米を超える部屋の広さやバリアフリー対応が万全だった点などに引かれたといい、「解約することはできるが、住みたいから解約したくないということを理解してほしい」と語る。
対立の争点
2月1日、取材に応じたこの2人を含む24人の購入者は東京地裁に民事調停を申し立てた。売り主に対して、説明会の実施や入居時期が後ずれしたことで生じる費用の補償を求めている。
売り手側と買い手側の主張は折り合わないままだ。選手村として使う予定の東京都は、もともと売り主に41億8000万円を払って2020年末まで1年間建物を借りる契約を結んでいた。五輪の延期に伴い、都は同額を払って賃貸契約を1年延長。購入者の入居時期も後ずれすることとなった。